「ん……ううん……?」
暖かくて、柔らかい。心地よさに包まれながら、私は目を開けた。視界に飛び込むのは、夏風に揺れるカーテンと、そこから溢れる日光。
「あれ、朝か……」
なんだか、長い長い夢を見ているような気がした。眠っている間に別の世界で暮らしていた、と思うほどに。
上半身を起こすと、仏壇が目に留まる。お父さんとお母さん。そして、妹の海月の遺影が置いてある。
「あれからもう13年、か……」
長いような、短いような。あの頃は受け入れ難かった現実も、今となってはちゃんと私の人生の一部になってしまった。そのことが、妙に胸を苦しめる。
ベッドから出た私は、顔を洗ってすぐに仏壇の前に正座した。朝の挨拶を、家族と交わすために。
線香をつけて鈴を鳴らす。澄み切った音の中で、私は今日もまた、おはよう、と言った。返事は返ってこないけど、多分聞こえている。
挨拶を終えた私は、新聞を取るべく玄関に向かった。そして、靴を履こうとした時だ。私はとある違和感を覚えた。
「これって……海月の、靴?」
亡き妹の靴が、綺麗に並べてあった。それも、両足揃った状態で。この靴の片方は、海で事故にあった時に無くしたはずだ。ここに、あるはずがないのに。
「もしかして……」
私の脳裏に一つの予想が浮かぶ。しかし、現実的にあり得ない。けれど、信じていいのかもしれない。
「ありがとう、海月」
私は微笑んだ。妹も、笑ってくれていたら嬉しいな。