「死にたい」
 君はそう言ったんだ
 突然だった
 戸惑った
 今目の前にいる君は
 私の知らない君だった
 つい数分前まで何でもない話をしてた君は
 お腹を抱えて笑ってた君は
 ずっと昔から知ってるはずの君は
 どこに行ったのだろう
 髪も顔も全部、ぜんぶ同じはずなのに
 どこに行ったのだろう
 いやだ、死なないでよ
 大好きな君が死ぬのは耐えられない
 そのはずなのに
 そう言おうと思ったのに
 じゃあ、そこから一緒に飛び降りようよ。
 知らず知らずのうちに私はそう言っていた
 今度は君の方が驚いていたね
 でも笑い返してくれたね
 なぜだろう
 君にはこんなにも生きていてほしいのに
 これまで君と生きてきたように
 これからもずっと生きていける
 口には出さないけれど心のどこかで
 一緒にいる未来を信じていた
 一緒に生きたいと願っていた
 絶対に離したくない
 私は君がいないと生きていけない
 君がいない生き方を私は知らない
 この苦しい日々を
 何もなくつまらない日々を
 君がいなくなったら私はどうすればいい
 どうやって生きていけばいい
 だから、生きていてほしい
 なのに君が死にたいのは事実で
 それを私に打ち明けてくれた
 だから、止めたいけど止められない
 なぜかって
 何よりも君に幸せでいてほしいから
 だから君を蝕むこの世界は私もいらない
 捨ててしまおう
 普通なら怖いはずのことも
 君とならできる気がするんだ
 きっと大丈夫
 君と2人でなら死ねる気がするんだ
 私は君を抱きしめた
 死にたがりの君はまだ生きていて
 君から規則的に聞こえる心音が
 君のあたたかな温もりが
 私のこころを幸せにしてくれる
 どちらともなく互いから離れ
 互いを見つめ合う
 手を繋いで歩き出す
 ゆっくりゆっくりと進んでく
 屋上の端が、この地面の終わりが、
 一歩踏み出す度に、確実に近づいていた
 不思議と怖くはなかった
 私の視界には生まれ育った街が広がる
 ずっとこの街に住んできて
 何度もこの場所に足を運んだ
 何度も見たはずの景色
 私を縛りつけていたその景色は
 もう今はそんなふうには見えなくて
 これまで見たどんな景色よりも美しかった
 空は青々と晴れていて、澄んでいて
 まるで私のこころと同じようだった
 今から死ぬはずなのに
 いや、違う
 死ぬ前だからこんなにも美しく見えるんだ
 瞳に写る、何もかもが
 私を縛り蝕んでいたものから解放される
 自由となれるのだから
 あぁ、そうか私は自由になりたかったんだ
 私も君と同じだ
 死にたかったんだ
 何気ない日々が、
 終わりのない日々が
 息苦しくて
 辛くて
 でも、君との時間は楽しい
 それは間違えようのない事実だ
 だから死にたいなんて思いは
 心の中にしまって
 多くの時間を貼り付けた笑顔で
 あたかも幸せのように生きていた
 だけどもっともっと私が欲しかったのは
 心の奥で臨み続けていたのは
 きっと、自由だったんだ
 君と目が合う
 もう一歩先には地面がない
 だけどその先には自由な世界が確かにある
 私たちは一歩を踏み出した
 私たちの幸せと自由の形を見つけたから