僕はガラスに鼻先が触れるくらい近づいて、仮面の隣に添えられた文章に目を通した。
『二つの仮面は、古くからこの島の神様が身につけているとされるものです。昔の人々は、神様の仮面と同じ物を自分たちの手で作り、年に一度の祭りの際に被って村中を歩き回っていました。隣にあるのは、一九五六年に制作された物です。
神様については名前など不明た点が多いですが、島の住人達からは厚い信仰を寄せられていたらしく、一九六〇年頃までは島の各地にある拝所で祈りが捧げられていたそうです。現在では、数少ない人々たちによって信仰され続けています』
文を読み終えると、僕は顔を離して安置された仮面を眺めた。仮面は、他の展示物に比べるとそれほど目立った場所にはない。文献や資料が少ないためか、他には何も置かれていない。
仮面の隣には、大昔に島の庶民が使用していたとされる着物のレプリカが壁に掛けて飾られていた。
茶色の着物で、それほど目立った柄でもないのだが、ポツンと置かれた老人の仮面に比べたら随分目立っている。その事が、余計に仮面の存在感を希薄にさせていた。
不意に、背後から声が聞こえた。
「そちらの仮面、興味があるんですか?」
振り返ると、受付の担当をしていた女性が立っている。
「興味、というか、目に留まったので……」
「そうだったんですか。受付から見ていると、仮面の前で急に立ち止まったものですから」
心臓の鼓動が僅かに早くなった。この女性は、やはり見ていたのだ。
彼女は、決して僕の事を訝ってはいないようだ。手が空いたから、何となく話しかけてきたのだと言う表情をしている。
何か適当な話題を見つけようとしてあちこちに視線を投げ、結局仮面について尋ねた。
「この二つの仮面って、何か他に分かってる事ってないんですか?」
口に出した後で、やはり適切ではないと感じた。受付係も、やはり仮面を見にきたんじゃないか、と言いたそうにした。しかしすぐに、感じの良い笑顔を浮かべた。
「ありますよ。つい最近なんですが、島内での調査活動に進展が見られまして、この神様は、死者の願いが込められた物を誰かに渡す役目があったのではないかという可能性が出てきたんです」
「願いを、誰かに?」
「はい。誰かを愛しているとか、あの人を守りたいという思いを抱いたまま亡くなった方の気持ちが籠った物を、相手の方に持って行くそうです。
この仮面の神様はルーツが古く、ご高齢の方でないと知っている人は少ないんです。なのでこの新たな事実は、そうした方たちへの取材を進めるうちに判明しました」
『二つの仮面は、古くからこの島の神様が身につけているとされるものです。昔の人々は、神様の仮面と同じ物を自分たちの手で作り、年に一度の祭りの際に被って村中を歩き回っていました。隣にあるのは、一九五六年に制作された物です。
神様については名前など不明た点が多いですが、島の住人達からは厚い信仰を寄せられていたらしく、一九六〇年頃までは島の各地にある拝所で祈りが捧げられていたそうです。現在では、数少ない人々たちによって信仰され続けています』
文を読み終えると、僕は顔を離して安置された仮面を眺めた。仮面は、他の展示物に比べるとそれほど目立った場所にはない。文献や資料が少ないためか、他には何も置かれていない。
仮面の隣には、大昔に島の庶民が使用していたとされる着物のレプリカが壁に掛けて飾られていた。
茶色の着物で、それほど目立った柄でもないのだが、ポツンと置かれた老人の仮面に比べたら随分目立っている。その事が、余計に仮面の存在感を希薄にさせていた。
不意に、背後から声が聞こえた。
「そちらの仮面、興味があるんですか?」
振り返ると、受付の担当をしていた女性が立っている。
「興味、というか、目に留まったので……」
「そうだったんですか。受付から見ていると、仮面の前で急に立ち止まったものですから」
心臓の鼓動が僅かに早くなった。この女性は、やはり見ていたのだ。
彼女は、決して僕の事を訝ってはいないようだ。手が空いたから、何となく話しかけてきたのだと言う表情をしている。
何か適当な話題を見つけようとしてあちこちに視線を投げ、結局仮面について尋ねた。
「この二つの仮面って、何か他に分かってる事ってないんですか?」
口に出した後で、やはり適切ではないと感じた。受付係も、やはり仮面を見にきたんじゃないか、と言いたそうにした。しかしすぐに、感じの良い笑顔を浮かべた。
「ありますよ。つい最近なんですが、島内での調査活動に進展が見られまして、この神様は、死者の願いが込められた物を誰かに渡す役目があったのではないかという可能性が出てきたんです」
「願いを、誰かに?」
「はい。誰かを愛しているとか、あの人を守りたいという思いを抱いたまま亡くなった方の気持ちが籠った物を、相手の方に持って行くそうです。
この仮面の神様はルーツが古く、ご高齢の方でないと知っている人は少ないんです。なのでこの新たな事実は、そうした方たちへの取材を進めるうちに判明しました」