探っていかなくてはならない。このミサンガは、夏海の死と向き合うために用意された物に違いないはずだ。たとえ配送者が、夢の中に出現した奇妙な仮面老夫婦だったとしても。
 少し離れた場所に、小さな資料館があると判明した。僕はすぐさま、あまり多くない荷物を持ち、忘れ物がないか確かめてから部屋を飛び出た。
 部屋の鍵は、玄関の靴箱の上に置かれたプラスチックの箱に入れた。チェックアウトの際はこうしろと紙に書いていたからだ。
 早朝の澄み切った空気を肺いっぱいに吸い込み、小走りでバス停へと走る。
 二〇分ほど待って、到着したバスに乗り込んでからは、席には座れなかったので吊り革を握った状態で一五分ほど揺られた。車内には制服を着た学生が何人も乗っていたが、誰一人として僕と同じ制服はいなかった。当たり前だ。
 昨日からお風呂にも入っていない事を思い出して匂いが気になったりもしたが、今更気づいても仕方がないと思うようにした。だが窓は全て閉じられていたので、近くに座っていた何人かには不快な思いをさせたかも知れなかった。
 学生服が粗方バスから降りていき、そこからさらに三つ停留所を過ぎた所で僕も降車した。昨日訪れた場所からは、だいぶ距離があった。
 スマホの地図アプリを使いながら資料館まで辿り着いた。壁には植物がびっしりと張り付いていて、屋根は長い間風雨に晒され続けたせいか黒ずんでいた。小さく、そして古い資料館だった。
 僕は頭の片隅で自らの匂いについて気にしながら、中へ入った。入館料は三〇〇円と安く、なんだかほっとした。
 三〇代くらいに見える女性が受付をしていて、彼女からトランプのカードに近い大きさの入館チケットを受け取った。それから常設展に向かった。一つ隣の部屋では企画展をやっているらしいが、最初に向かうべきは常設展だと思った。
 本物の出土品と模型を組み合わせた展示物が、学校の教室二つ分ほどの室内に並べられていた。大半の品物がガラス越しに展示され、触れる事は叶わない。
 展示物の中から、老人の仮面を探した。造形はしっかりと脳に刻まれているから、近い物であってもすぐ目に留まるはずだ。
 説明のための文章などは読まず、右から左へと移動を続ける。今の僕を受付の人間が見たら、何のためにわざわざやってきたんだ、ちゃんと見て回れと思うに違いない。だが僕だって真剣だ。
 展示室を半分以上確認して回ったが、あの仮面は発見できない。やはりもっと別の何かなのだろうかと考えを改めようとした時だった。
 二つ並べて置かれたそれを、僕の目が捉えた。
 見間違いではなかった。夢に出てきた、老夫婦の付けていた仮面だ。