まるで金縛りにでも遭ったような気持ちがした。
 老夫婦は、動けないでいる僕の目の前に移動して、その場にかがんだ。老人らしく、動きは遅く足腰の痛みでも気にしているようだった。
 床に手をつき、足を曲げてから腰を下ろす。一〇秒ほどかけて一連の動作を終えると、老男の方が手を前に差し出した。掌は硬く握られていたが、不意に力が抜けたように開いた。
 老男の手の中から何かが落ちて、床の上に着地した。僕の目は老夫婦に釘付けだったので何が落ちたのかは見えなかったし、音もまた聞こえない。固い物でないのは確かだ。
 仮面を付けた老人達は、床の方に顔を向けた後、静かに立ち上がった。生まれた直後のキリンのように、震える足を使い時間をかけて立ち上がる。僕に何を言うでもなく、入ってきた扉から部屋の外へと出ていった。僕はただ、顔だけを動かして彼らを見送った。
 そこで目が覚めた。夢の内容はしっかりと覚えていた。背中にはびっしょりと汗をかいていて、まるでついさっき、実際に体験した現実の出来事のように感じた。
 僕は慌てて部屋の中を点検した。もしかすると、老夫婦が落としていった何かがあるかもしれない。
 テレビの正面、床の上に、昨日まではなかった物を発見した。
 緑色のミサンガだった。生前、夏海が肌身離さず持ち歩いていた物だった。
 恐る恐る、僕はミサンガを手に取った。仔細に観察したが、見間違いではない。確かに夏海の所持品だ。そしてこれは、今頃彼女の両親が遺品の一つとして管理しているはずの物だ。
 僕が、夏海や彼女の両親から預かった覚えもない。
 ミサンガを持っていると、段々恐ろしくなってきた。自分が何か、得体の知れない者からアプローチを受けているからだ。こんな物を僕に寄越して、いったい何のつもりなのか。
 すぐに持っていたスマホから、夢に現れた老夫婦について調べた。あの二人は確実に、夢の中だけの存在ではない。物証があるからには、たとえ正体が幽霊であれ、妖怪であれ僕に何かしらの関係があるはずなのだ。
 何故、夏海の所持品を僕に渡したのか。知りたいと思うのが自然だ。
 数分粘ったが、スマホでは有益な情報は得られなかった。次に僕の取った行動は、この島に博物館や資料館がないか探す事だった。そういった施設があれば確実に、この島の伝統文化や伝説のようなものが紹介されているはずだ。
 当然だが、あの老夫婦が島に住み着いている者であるという確証はない。飛行機に乗ったあの時から、僕にとり憑いていた霊である可能性も低くはない。もしかすると、夏海自身が老人の姿を取って現れたのかも知れない。
 だがインターネットで調べても出てこない以上、自分の足を使ってあらゆる可能性を探