会釈をして、男はバスを降りた。
 男が降車してからも、僕はバスに乗り続けた。バスの行き先は分からなかったが、お金ならあるし、そもそもどこに向かえば良いのかもわからなかった。夏海が何を考えてこの地を選んだのか、基準が不明だからだ。
 一体彼女は何故、この島を旅行先として選択したのか。景観なのか、特産品なのか。それとも気候だろうか。
 いくら思考を続けても答えは見えてきそうになかったので、気分を変えて少し歩く事にした。
 適当なところでバスを降りて、何かないものかと市街地の中を歩き回った。
 降りたバス停からすぐ近くの場所には、なんでもあった。なんでも、と言っても田舎にしてはという程度のものだ。コンビニやスーパーマーケットなどの商業施設。区役所や、学校のような、人の集まる場所。そこから西に進むとビーチもあった。
 白い砂浜と青い海が輝いていて、旅行者らしき人たちはもちろん、近くに住んでいるらしい主婦が散歩をしていたり、白髪の老夫婦が仲良くウォーキングをしたりしている。
 どこまでも続く海を前にして、不幸そうな顔をしている者など僕一人だけだ。そんな人たちが太陽光を反射する海より眩しくて、僕はすぐに道を引き返した。
 再び市街地の中心地に辿り着いた時、日は西の方へ傾き始めていた。今日は一泊していくつもりだが、まだ宿の予約はできていない。公園で野宿するという選択肢もあったが、考え直してやめた。
 近隣住民が通報すれば、僕は警官に夏海が死んだ事から説明しなくてはならない。一日に二度もそんなの話をしたくないし、第一警官が話を信じてくれるかもわからない。或いは、バカを言うなと笑われたり、叱られたりするかもしれない。想像しただけでも吐き気がする。
 スマホの地図アプリで、今からでもチェックインできる宿がないか探した。候補は二つ挙がった。カプセルホテルか、民宿だ。
 僕は迷う事なく民宿の方に電話を入れ、部屋の空きがあるかどうか尋ねた。幸い、今日は一部屋も予約がないらしい。他に誰もいないのは好都合だ。
 電話を切って、早速向かう。疲れも感じ始めていたので早く休みたい。スマホには両親からの着信履歴があったが無視した。バスに乗り、民宿に向かう。
 市街地から外れた、静かな場所にそれはあった。普段は民宿など利用しないので、入り口である門の前に看板が無ければ通り過ぎた事だろう。
 ただでさえ制服姿な上に慣れない事をするので若干戸惑いもしたが、迷いはせずにドア