見た所、二〇代前半くらいに見える。緑のパーカーを着ていて、首に巻いたマフラーを外して畳んでいる所だった。
「違います。沖縄にも住んでません」
「旅行、ですか? 学校の制服を着ているのは、コスプレですか? 何かのドラマとか、アニメとかに出てきた」
 僕は首を振った。
「いいえ、正真正銘、僕の通っている学校の制服です」
 僕の返事を聞いて、男は混乱したようだった。無理も無い。
「えっと、地元の学生さんでない方が、自分の学校の制服を着たまま沖縄までやってきた、という事でいいんですよね?」
 男が確かめるために言った。僕は頷いた。
「学校を途中で抜け出して、勢いでここまで来たんです」
 男が「勢いでここまで来た」と呟く。僕に言われた内容を反芻するかのように。しかし顔にはまるで理解できないと書かれていた。当たり前だろう、と僕は思った。
「チケット、高くありませんでしたか?」
「かなり高かったです」
「それなのに、わざわざやってきた。勢いに任せて?」
「おかしいと思われるかもしれませんが、本当なんです」
「理由、聞いてもいいですか?」
 男の言葉は随分遠慮がちになっていた。あまり明るい話ではなさそうなので避けた方がいいのだろうが、目の前の学生への興味が勝っているようだった。
 少しの間、僕は考えた。話すべきかどうか。やがてバスが速度を落として停車した。見れば、信号機が赤色に光っていた。運転手が退屈そうにハンドルから手を離し、右を向いて景色を眺めている。周りにはどこまでも畑が続いており、何か面白そうなものはない。だが長時間の運転で疲れた心を癒すのには、いくらか役に立っているのかもしれない。
 やがて信号が青に変わり、バスが重い体を引きずるようにしてゆっくりと走り出した。住宅街に入って道が細くなったためか、それほど速度は出さない。
 バスが走り出したタイミングで、僕は小さく呟いた。
「今日、恋人を亡くしたんです。」
 まっすぐ僕の目を見ていた若い男が驚いて口を開け、上半身を回旋させて反対を向いた。いかにも気まずそうにしている。
 だが男は、すぐに僕の方に向き直した。
「事故とか、病気とかですか?」
「事故です。彼女は一つ隣のクラスなんですけど、いつも通り学校に行ってもいませんで