女性の話によれば、まだ調査中で断言できないため、敢えて解説文は新しくせずにいるという。手にした情報を精査した後、展示内容を変えるらしい。
 展示が新しくなるなど、どうでもよくなった。受付係に礼を言って、足早に資料館をあとにする。
 外に出ると、堪えていた涙が次々に頬を撫でていった。夏海の気持ちがわかった気がしたからだ。
 通勤途中の会社員や観光客が、何事かと僕の方を見る。だが僕は、人目を多少気にしつつも、溢れる涙を拭うだけでその場を動かなかった。
 ポケットの中のスマホが震える。誰かから電話が掛かってきた。電話を掛けてきたのは、僕の母親だった。
 今どこにいるのか、昨日はどうしたのかなど質問攻めにあったが、今から帰るとだけ言って通話を終了させた。伝えたのは短い言葉だったが、声の震えは十分に伝わっていただろう。
 スマホをポケットへしまい、ちょうどやってきた空港行きのバスに僕は乗り込んだ。
 僕はこれから、起こった出来事にしっかり向き合わなくてはならないのだ。