肌寒い秋のよく晴れた日、僕は昼食時間に学校を抜け出して、帰宅はせず制服を着たまま飛行機に乗って沖縄県のある島に向かった。インターネットを使って、思いつきで飛行機のチケットを取り、一人きりでバスに乗って空港に向かった。
 搭乗ゲートから飛行機の中に入ると、客室乗務員や他の乗客が僕へ視線を投げかけた。何故制服姿の男子学生が、たった一人で飛行機に乗るのかと。抱いて当然の疑問だ。
 本来なら何か別の服装に着替えるべきなのだろうが、そうはしなっかった。突如として飛行機に乗る事を思いついたのと、面倒臭いのが理由だ。
 周囲の視線を受けつつ、僕は座席に腰を下ろした。隣には誰も座らないまま、飛行機は離陸してしまう。今から僕を乗せた機体が、遥か南方に浮かぶ小さな島に向かうのだ。
 三時間ほどで、目的の島が窓から見えた。想像していたよりもずっと小さい島で、自転車を使えば一日で一周できそうなくらいの大きさだった。周りを囲む海が日の光を受け、宝石のように輝いている。上空から見下ろす島は、誰かが丹精込めて作ったジオラマみたいに思えた。
 飛行機が着陸すると、僕は人の邪魔にならないよう列の中に入って飛行機を出た。荷物は背負っていたリュックサックだけだったので、ベルトコンベアの前で待機する必要はなかった。空港の正面出入り口の自動ドアを抜けて、外へと出る。
 屋外へと出て最初に見たのは、青い空だった。雲は無く、青い画用紙を貼り付けたような天気だった。当然気温は高く、着ていたブレザーを脱ごうかと一瞬考えたほどだった。
 ブレザーは脱がないまま、目についたバスに乗り込んだ。行き先がどこであるのかは一々確認しなかった。とりあえずどこかへ行ければ、それでいい。
 眠たそうにボソボソとアナウンスをしている運転手が、僕の方をちらりと見た。視線は明らかに顔ではなく、その下を向いていた。つまり、服装が気になったと言う事だ。飛行機の時と同様に、僕は何も言わず整理券を手にして一番後ろの席に座った。
 出発時間になって扉が閉まりかけたとき、慌てて走ってきた若い男性が車内に駆け込んできた。バスの利用客は、僕と若い男の二人だけ。
 バスが走り出すと、それまで手すりを掴んで立っていた若い男が僕の方へ歩み寄ってきた。まさかと思いつつも、外に視線を投げる。男は僕の隣に座った。他に空いている座席はいくらでもある。何も隣に座る必要はないじゃないかと、僕は心の中で男に語りかけた。
 なんとなく居心地が悪くて、座り直すフリをして少しだけ体を右に動かした。ひょっとしたら、バスジャックをしようとしている危険な人間かもしれないと勘繰る。
 だが、隣に座った若い男は、和かな笑みを浮かべて僕に話しかけてきた。
「こんにちは、地元の学生さんですか?」
 運転手に話しかけているわけはない。
 僕は観念したように、男の方を向いた。