「ちょっとだけなら、入ってもいいよね」
一応、OGということで。
私は、なるべく人目につかないように敷地内に入ると体育館に向かった。
高校時代は散々通った場所なのに、なんとなく心細いし疎外感を覚えてしまう。
卒業して一年半しか経っていないのに不思議だ。
体育館の前で足を止めた私は、懐かしさ以上に物寂しさを感じていた。
今日は体育館を使う部活はお休みなのか、あたりは静まり返っている。
――そもそも私は、どうしてここに来たんだろう。
ガランとした空気に触れたら、急に冷静になってしまった。
最初からそのつもりだったみたいにここまで入ってきてしまったけれど、べつに海凪高校に立ち寄る予定はなかったのだ。
「ダメダメ、帰ろう。あ……」
と、来た道を引き返そうとしたら、体育館のドアが開いていることに気がついた。
きっと、誰かが鍵を閉め忘れたんだ。
私が男バスのマネージャーをしていた当時は、最後に使った人が鍵を閉めて、鍵を職員室に戻すルールになっていた。
「キャプテンとか先生にバレると、ちょっと厳しく注意されちゃうんだよね」
鍵を閉め忘れた子に口では同情しながら、私はまたなにかに導かれるように歩き出した。
そして、ドアの前で靴を脱ぐと、体育館内に足を踏み入れた。
次の瞬間、高校時代に何度も嗅いだことのあるワックスとゴムの匂いが鼻先をかすめて、当時にタイムスリップしたような気持ちになった。
体育館の中は、あのころと少しも変わっていなかった。
思わず感傷に浸っていたら、体育館の隅にバスケットボールが置き忘れられているのを見つけた。