「……あやかしの人たちの名前は、どなたが付けているのですか?」
朧たちは名を持たないと言った。では、千牙をはじめ、『朧ではないあやかし』は違うのだろう。だとしたら、誰が付けているのだろうか。咲の素直な疑問に、千牙はちゃんと答えてくれる。
「あやかしは生まれた時から名を持つ。朧のような弱いあやかしは名を持つことが出来ぬが、力が備わっていれば、その力を制御すべく、名を内包して生まれてくる」
「そうなんですね……。人間とは全然違う……」
「そうだな、だから、その者の未来を祝する彼らの名は、彼らにとっても喜びだろう。良い名を、ありがとう。咲」
微笑んで千牙がそう言うものだから、咲は戸惑いつつも、照れて頭を描いた。そんな大層なことをしたとは思っていないからだ。
「じゃあ、千牙さんのお名前は、どういう力を制御するために持って生まれたんですか?」
何気ない疑問だった。千の牙、の名は、なにを意味するのだろうと。すると、咲の問いに、問いで応えられた。
「では咲はどんな意味だと思う。言葉の意味を色々知っている咲なら、分かるのではないか?」
どんな名とは……。強そう、とは思うが……。
「『強い力をもって、おにかみの里を護るものたれ』……、とかいう感じですか……?」
漢字の雰囲気で応じると、千牙は、なるほど、と感心したように目を瞠った。
「咲の口から出てくる名は、全部美しいな。私の名が、そういう意味だったらよかっただろうと思うよ」
では、違うということだ。まあ、あやかしの力を制御する名前なんて、咲には見当もつかないから、当たらなくて当然だ。
「じゃあ、どんな意味なんですか? なぞかけをしたら、仕掛けた人は、答えを教えてくれるべきだと思いますが……」
咲が言うと、千牙はそういうものか、と言って、口許を歪めながら、こう応えた。
「私のもとの名は別にある。この名は、私が人とあやかしの間を調停する者としてその責を任じられた時に、神々から与えられたものだ」
「与えられたもの……」
命名、みたいなものだろうか。咲が考えていると、人と違ってな、と前置きをして千牙は更に続けた。