千牙の計らいで、小夜に付き添われて咲はおにかみの里を離れた。手には別離を前にスズが泣きはらして握ってくれた握り飯と、ハチがこしらえてくれたわらじがあった。この先、おにかみの里で暮らしていたことを悟られずに、迷い人として行く先の邑に入る。咲が邑に住んでいた頃は知らなかったが、人の邑々は、全ての邑があやかしの住まう区域と境界を接しているわけでもなく、邑と邑が隣り合い、それらを包括する街というものが形成されている地域もあるのだという。咲の行く先は、そのようなところのようだった。

季節とは関係なく冷え冷えとしたうすら寒さの中、咲は小夜とあやかしの行き交う区域を歩いていた。森の向こうの方に、人が築いた結界が膨らんでいるのが見え、あそこが新しい生きる場所だと認識しているときに、咲は隣から窺うように問われた。

「咲さま。いま一度、お聞きします。咲さまは、あなたのご家族のなさりようを、どうお考えですか」

どう、とは。穏やかならぬ小夜の声に、咲は次の言葉を待ち、緊張した。

「あなたの邑は、強欲すぎる。古き協定を無視し、力任せにその領域を広げる工作を繰り返してきた。今から行く邑々は協定を護り、あやかしとの間に争いを生まないのに、あなたの邑のやり方は酷い。知っておられるでしょう、あの邑が年々大きくなっていったのを。あなたが耕す畑も、ここ五年でずいぶん増えた筈です」

はっとする。小夜に付きつけられた咲の邑のやりようは、咲の記憶と重なる。となると、咲が昼に朧たちに会っていた事実もまた、理由が付く。

「小夜さん……。もしかしてお母さまたちのなさりようは、千牙さんにものすごく苦痛を強いていたのでしょうか……」

邑に居た頃は知らなかった。邑が広がれば、邑長が喜び、邑人からの貢物が市子たちのもとへ届けられ、家族は満足そうだった。山と積まれた貢物の品たちがあれば、ひと晩は咲に酷い折檻が下らなかった。そのことに安堵していた。

(わたしは、なんてことを……)

さあ、と地の引く思いで虚空を見つめていると、小夜は問うた。

「あの邑のことは、あなたのなさりようひとつです。咲さま。あなたはどうされますか」

そんなの決まっている。咲は、小夜を毅然と見つめた。