「ロラン!! ロラン!! 」

無我夢中で名を呼ぶユリシア。その声に反応して、薄く瞼を開くロラン。

「ユリシア………。僕は………思い………出した。あの日………。呪いを受けたのは………。ユリシア……じゃない。僕だ………。僕だったんだ……」

ユリシアはロランの左手を強く握りしめる。

「う、うん。私も思い出した。ロランが私を庇って、呪いを受けてくれた事。全部、思い出したよ」

「うん……。良かった………。ユリシアはこれで………」

「ロラン!ロラン!!」

ロランの意識はどんどん弱く、呼吸も浅くなっていく。

「ロラン!!」

そこへようやっと駆け寄るオーランド。その惨状を見て、ロランの目の前で膝をついた。

「ごめん。ロラン。俺は。俺は。ずっと知っていたんだ。この呪いは、ユリシア様じゃない。お前にかけられた呪いだと。でも。でも。俺は」

オーランドは、最愛のロランを護るために、君主も、国も、その最愛の人さえも騙し続けた自分を呪うように、両拳と頭を地面に叩きつける。

「どういう………ことだ……。それでは、ロランは………。私のかわいい孫は………。そんなことあり得ない………あり得ない………」

バルダンもまた、馬から下りると、ただただ雨に打たれ、呆然と立ち尽くしている。

「ロラン!ロラン!」

その間もユリシアはずっとその名を呼んでいた。愛する人の名を。雨音をかき消すほどの声で呼び続ける。

しかし、その声は天に届く事はなかった。

すっかり瞼を閉じきったロランはやがて、小さく続いていた呼吸を止めた。鼓動もゆっくりと刻みを止めて、ロランを世界と断絶させる。

「ロ、ロラン………ロラン!!」

ユリシアからの瞳からは、止めどなく涙が溢れ、喉を引き裂くような声を上げる。

それと同時に、5年もの間降り続けた雨は、呆気なくその音色を止める。

曇天もみるみると引いていき、最早この国では異質となった青空を映し出す。

ユリシアはそんな空を見上げて、ロランの死を肌で感じていた。

そして、そんな空に不思議な光景を見つける。

赤。橙。黄。緑。青。紺。紫。様々な色を纏ったアーチが空に架かっている。

「あれは? 虹? 」

絵本で見た虹。話に聞いていた虹。そのどれにも当てはまる。そのどれ以上に綺麗な大きなアーチ。

「あぁ。見れた。見れたよ。ロラン。約束通り、虹が見えたよ。綺麗。綺麗だね………ロラン………」

雨が止み、虹のアーチが映し出された青空のスクリーン。

兵士達もその久しく見ていなかった光景に、感嘆の声をあげている。

地に伏せていたオーランドもまた、その光景に目を奪われていた。

そして、ユリシアが抱き寄せるロランの頬に、その晴天には似つかわしくない雫が、ポツリと落ち、伝っていった。