ーーーー翌朝。曇天の影響で、夜と朝の空色の境が曖昧の中、ロランはゆっくりと瞼を開いた。

隣では、気持ちのいい寝息を立てて、肩に頭を乗せるユリシアの姿。

そんな小さな幸せに、ロランは頬を緩ませる。

そんな幸せを断ち切るように、微かに足音が近づいてくるのを察するロラン。

「ユリシア!ユリシア!」

直ぐにユリシアの肩を揺らして、意識を呼び戻すロラン。

「う~ん。おはよう。ロラン」

呑気に欠伸をするユリシア。

「ユリシア!追ってが来たみたいだ。早くここから逃げないと!」

「う、うん!!」

ロランは起きがけのユリシアの手を握ると、曇天の下へと繰り出していく。

「いたぞ!!囲め!!」

しかし、そんなバルダンの声が響き、多数の影が2人に迫っていた。

「急ごう!」

反射的にその影に背を向けて走り出すロラン。しかし、まだ体が覚醒していないユリシアは、縺れる足が泥濘にとられ、前のめりに倒れてしまう。

その勢いで、繋いだ手が外れ、勢いのまま数歩前に出たロランと、少し距離が出来る。

慌てて振り返ったロランが目にした光景は、もう目と鼻の先まで迫る、バルダンと、その手先の兵士達の姿だった。

「よし!今がチャンスだ! 早く放て!銃を放て!」

兵士達はバルダンの号令に従うように、カートリッジ式の銃の銃口をユリシアに向ける。

「ユリシア!!」

ロランは一目散に駆け出す。

「撃て!!」

続け様のバルダンの号令。兵士はそれに従い、引き金に添えた人差し指に力を込めた。

パンッ!パンッ!と乾いた銃声が、数発響き渡る。

その直前の出来事だった。

向けられた銃口とユリシアの間を遮る1つの影。それは紛れもないロランの姿だった。

ロランはユリシアに背を向ける形に、弾道を塞ぐようにして立ちふさがっていた。

「ロラン!!」

その大きな背中を目の当たりにしたユリシアの脳内に、1つの映像が流れ込んでいく。

ーーーー それは5年前。全ての元凶となったあの日の映像だった。

魔女グロースから発せられた光から、身を挺してユリシアを護るロランの姿。

異変を察したオーランドが、駆け寄って来た瞬間、泡のように粒になるグロースと、力なく倒れ込むロラン。

ユリシアはそんなロランに受け止めようと手を伸ばすも、 指先にも触れる事なく、ロランは地に倒れた。

ーーーー そして現在。その映像とシンクロするかのように、銃弾に突き抜かれたロランは、泥濘に倒れ込んでいく。

「ロ、ロラン!!」

ユリシアは、泥濘に足を取られながらロランに駆け寄っていく。