ーーーーあの日から4日後。

僕と椿の間の溝はまだ埋まることはない。

挨拶や、ポツリと交わす会話がなんとか繋ぎ止めている関係性。

潮騒部の面々も僕らに気遣いながら、明るく努めている。その姿を見ているだけで申し訳ない気持ちと、居たたまれない気持ちに押し潰されそうになる。

この日はナルの誘いによって、僕は潮騒部に顔を出していなかった。ナルと巻き込まれたような美琴に連れられるまま放課後の時間を消費している。

校門を出て1キロは歩いただろう。しかしまだ行き先は分からぬまま。

「ねぇ。一体どこに行こうって言うんだよ」

「まぁまぁ、もう少しだから!」

さっきからこの会話の繰り返しだ。もう少しもう少しと、一向に着く気配のない散策に徐々に不満が溜まってくる。

「ほら!見えた!あの階段。あそこを登ればすぐだ!」

もう一度、文句のひとつでも言ってやろうと構えた矢先、前方を歩くナルが神社の境内に繋がりそうな石階段を指差した。

「ここは?」

「登ってみればわかるわ」

ナルの代わりに答えた美琴は、僕を先導するように姿勢を崩さずスタスタと階段を登りはじめる。

ナルはそんな僕をエスコートするように手のひらで階段を指し示す。

僕に拒否する選択肢はなく促されるまま階段を登りはじめる。

日々の登下校が運動不足を補っていたこともあり、苦行とはならずに頂上までたどり着くことが出来た。

階段を登りきりまず広がった景色に唖然とする。

見渡す限りの墓石。何も知らず登らされた僕は、いきなり現れたその光景に少し鳥肌を立たせてしまう。

「さぁ、こっちだ」

立ち尽くす僕を尻目にズカズカと先へ進んでいくナル。その後をこちらも躊躇なく進む美琴。

墓苑は死者が安らかに眠る場所。そんな場所に恐怖心を覚えてはいけないと思っていても、心の準備をしていなかった僕にとってはまるで異世界。

それでもこの場で一人立ち尽くしているわけにも行かずに、僕は少し離れた2人に追いつくようにと小走りで駆け寄っていった。

暫く歩いてやがて2人が足を止めたのは、黒光りした墓石の前だった。

その墓石には「浅井家」と書かれており、それだけでここで眠る故人が誰なのか理解することが出来た。

「晴也の墓だ」

僕が聞くまでもなくナルは答え合わせをする。

今までは確かな形がなく、浮世離れした世界の住人のような気がしていた浅井晴也が、こうして形あるものとして目の前に現れると、死という現実と嫌でも向き合わされる。

「俺はさ。いや、俺たちはさ。みんな一緒なんだよ」

ナルはそう前置きなしにそう呟く。

「みんな一緒?」

「ああ。俺も美琴も、椿も七海も」

そう珍しく真面目な顔つきで浅井晴也の墓石を見つめてポツリポツリと続ける。

「あと、刹那お前もだ」

「僕も?」

全く話の道筋が見えずに疑問符ばかりを返してしまう。

「俺はな、昔、かなづちでさ、全く泳げないところか、海に入るのさえ怖くてよ」

「え?かなづち?」

中学時代は名の知れた選手で、今ではコーチをするほどの腕前のはずだが、予測不能な暴露を受けてたじろいでしまう。

「ああ。あの日もだ。あの日も海に行ったはいいが、一度も海に入れなくてな。ビーチで退屈を謳歌しててさ。そんな時にあの事故が起こった。いち早く駆けつけるまだ見知らぬ刹那に、晴也。俺だけは足が震えるだけで、助けに行くことなんてできなかった。只ただ、一部始終を見守るしかなかったんだ」

普段明るくムードメーカーな一面を持つナルの、重い過去話に自分の事のように心が痛む。

「まぁ。それでさ、あの日の自分が情けなくて、許せなくて、暫くしてからスイミングスクールに通いはじめて、今ではすっかり泳げるようになっちまったけどさ、なんでもっと早く。もっと早く………」

その後に続く言葉はナルの口から出ることはないが、影を落とした表情が全てを物語っている。

「だからさ。正直、お前が羨ましかった。お前は間違いなく2人を救ったヒーローでさ。間違いなく、俺よりも強くて、かっこ良かった」

「ナル…………」

打ち明けられた過去から連れた痛みと、僕への隠れた想い。

ナルもまたあの日に取り残された一人なのだと、改めて実感する事ができた。

「私も………同じよ。ナルと同じ」

「え?」

そこへ浅井晴也の墓石の前にたどり着いてから、口を閉ざしていた美琴重苦しく口を開いた。