「…え?朝だ」
 さっきまで珈琲の香りの中、パチンパチンと音を立てていたはずなのに。私はベッドの中で完全にいつもの朝を迎えていた。

 登校して一年生の靴箱をチェックしてみる。十クラスもあるのだから、他のクラスなら見覚えがないのは当たり前だ。そう思って靴箱を確認したけど葉らしき名前はない。
 やっぱり夢だったのかな。一緒に遊んだ彼がどうも夢だけの存在には思えなくて会える気がしたのに。葉が現実にもいてくれたら、何か変わってくれる気がしたのに。



 今夜は目の前にミルクティーが置かれていた。珈琲はまだ早い、と店主――フミコさんに言われたのだ。今夜も喫茶サンに私と葉はいる、昨日と同じマホガニーの二人がけの席に座って。

「今日学校で葉のこと探したんだ」
「僕も」
「でも見つからなかった」
「同じく」
「ここは夢なのかな」

 葉はわからないねと言ってミルクティーをすすった。あち、とすぐ唇を離す。

「猫舌?」
「うん」
「ねえ、制服が同じだけで別の学校だったりする?」

 私達は学校名をせーので発表したけど、同じ高校だった。

「もしかして並行世界から来てるとか?」
「急にファンタジーな話になってきたね」
「でもこの喫茶店自体がファンタジーじゃないか?」
「そうかも。葉はこれを夢だと思っていない?」

 葉は白くて長い指を顎にかけて少し考えた。

「うん。夢って自分の意志が通らないはずだけどここは僕の指示通り動くんだ。それに僕の夢はいつもモノクロだけど目の前の光景はカラフルだ」
「確かに夢にしてはリアルだよね」

 今日もお年寄り達は話に花を咲かせている。彼らは常連らしく昨日とメンバーが変わらない。孫がどうだとか、終活がどうだとか私たちには程遠い話をしている。それが心地よくて、ミルクティーが喉を通って温めていく。

「現実じゃなくてもここの雰囲気好き。葉は?ちょっと不気味?」
「正直最初は不気味だった。でも今は好き」
「ふふ、私も」