「分かっております。……幸い、あなたとリディアによって、『破滅の創世』様の記憶のカードは確保できています。後は『破滅の創世』様のもとに赴くことができれば……」

アルリットの言葉に、随分と物腰丁寧な仕草でレンは礼をする。大仰に両の腕を広げながら。
奏多の――『破滅の創世』の記憶が戻るのを待ちわびるように。

「アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力は、必ずや『破滅の創世』様をお救いするための一助となるはずです。では、この戦乱に乗じて、私達は『破滅の創世』様のもとに参りましょう」

『破滅の創世』の思い描く情景には遠いかもしれないが、これは確かな一歩のはずだとレンは確信していた。

「ここだねー」
「はい。ここに『破滅の創世』様がいるはずです」

アルリットとレンは『境界線機関』の基地本部に降り立つ。

「さてと……レン。ここからは、強奪してきた一族の上層部の人間の能力を活かさないとね」

アルリットは空に手をかざして周囲を照らす能力――光の玉を顕現させようとする。
その手から淡い光が放たれた瞬間、アルリットの姿は聖花のそれへと変わっていく。
やがて、光の玉がふわりと浮上して、周囲は明るく照らされていた。

「ねー。あたし、真似るのは得意なの」

紫の瞳と銀色の髪が特徴的な少女。
裾を掴んでいるドレスを思わせる衣装は青や紫色の花をあしらわれている。
いまや、アルリットの見た目は聖花そのものだ。

「どう、レン? このまま、一族の上層部の一人として潜入できそうだよね」
「……既に、冬城聖花が亡くなっているのは知れ渡っています。このまま潜入すれば、すぐに偽物だと発覚するでしょう」

アルリットの明るい声音に、レンは丁重に応対する。

「アルリット、今回の目的を履き違えないように」
「レン、分かっているよ」

レンの念押しに、アルリットは胸の内に決意を滾らせた。

「でも、この能力が一族の抹殺に、ひいては『破滅の創世』様の役に立つんだし」

アルリットは目を細めて深く笑う。

「では、アルリット、参りましょう」
「レン、『破滅の創世』様がどこにいるのか、分かるの?」
「はい、もちろんです。『境界線機関』を監視する一族の上層部の内密者。アルリットが強奪した一族の上層部の人間の能力を用いて、彼らを利用する手配は済んでおりますので」

どこまで知っているのか把握しかねたが、一族の上層部ですらも抗えぬ何らかの情報源がそこにはあるのだろうと、アルリットは察した。