「なんと恐ろしい……」
「由々しき事態だ」

近場の電柱に設置していた監視カメラの映像から、その光景を見ていた一族の上層部の者達は眉をひそめる。

「やはり、早々に『破滅の創世』様の記憶を再封印しておいて正解だった」
「『破滅の創世』の配下達がカードを用いてきても、奏多様が『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻すことはない」

数多の世界の可能性を取り込んだこの世界で繰り返される『破滅の創世』という神の加護を用いた実験と解析。
その過程で顕現する『破滅の創世』の配下達という存在は、一族の上層部にとって看過できないものになっていた。





「言ったはずだ」

司が神獣の軍勢を斬り裂く軌道で振るったその重力波は極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示された。
ともに立つ味方には奇跡を、立ちふさがる敵には破滅をもたらす、重力操作能力の本領発揮だった。
そこに神獣の軍勢が迫る。だが、司を穿つことはできなかった。

「おまえ達はどう足掻いてもこの先を進むことはできない。俺達がここで食い止めるからだ」

司は感情を交えず、ただ事実だけを口にする。
神獣の軍勢の怒濤の如く迫る衝撃に対抗するように、自衛隊の戦車部隊が大地を抉り、けれど果敢に砲弾を叩きつけたからだ。
さらに、上空から次々と高い加速性能を持った高速戦闘機がリディア達に迫る。

「理解できないな。この程度でわたし達を食い止められると思っているとは……くっ!」
「……っ」

だが、戦闘機の動きはリディアとヒュムノスの想像とは一線を画していた。
戦闘機は旋回能力を生かし、高速で飛行していたリディアとヒュムノスの動きを阻害する。

「悪いな。たとえ、敵の実力に圧倒されてもな。俺達はこの戦いを諦める気はないぜ」

それは司が示した確かな信念だった。
悪意に晒されながらも、それでも乗り越えて進むしかない……と言うように。





その攻防の最中、戦線の把握に務めていたレンはつぶやく。

「一進一退ですね」
「そうだね」

奏多達がいる『境界線機関』の基地本部を中空から俯瞰していたアルリットは同意しつつも、レンに改めて直言した。

「でも、レン。今回、あたし達が遂行するのは『破滅の創世』様の確保。基地本部に潜入することだよ」

そう宣言したアルリットは神の鉄槌を下そうとする。
神命の定めを受けて生を受けた『破滅の創世』の配下達にとって、『破滅の創世』は絶対者だ。