「そうはさせるかよ!」

奏多が事前に、不可視のピアノの鍵盤のようなものを宙に顕現させて鍵盤を弾いていたのだ。
青い光からなるのは音色の堅牢(けんろう)堅固(けんご)な盾。その彼なりの極致は光の槍を弾いていく。

「続けて行きますよ! 降り注ぐは氷の裁き……!!」

氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の反攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。

「大丈夫か、結愛」
「はい、奏多くん」

奏多と結愛は会話を交わすことで、感謝の念と次なる連携を察し合う。

「はううっ、好きな人と一緒に戦うっていいですね。世界が変わるんです。戦うことが怖くても、奏多くんが傍にいるだけで勇気が湧いてきます!」

奏多の傍にいるだけで、甘く優しい幸福に満たされる。
ふわりと色とりどりの色彩が結愛の胸中を包み込む。

『破滅の創世』の配下達との戦闘による惨状は想定以上だった。
それでも戦闘は激しいものになっていた。
『境界線機関』側も相当な戦力を投入していたことが伺える。

『境界線機関』の基地本部。

それは今この時の世界において、もっとも人々の興味を集める場所と言えるかも知れない。
先日まで行われていた『破滅の創世』の配下達による侵攻。
『破滅の創世』である奏多を確保した後、文字通り、世界を滅ぼそうとした。
あたかも神の所業なる壮大な侵略の様子は、各国を震え上がらせるには充分だ。
だが、その恐怖も長くは続かなかった。
これまでの戦い同様、『境界線機関』の者達の決死の活躍により、阻止されたためである。

「基地本部を守り抜く! ここで何としても食い止めるぞ!」

前線に出ている司の号令とともに、戦車部隊は敵と相対する。
相手は神獣達。
神獣がその身を硬化する前に対処する。
こちらに向けた殺意の数は多いが、やってやれない数ではない。
しかし――

「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」

リディアの打突。それは相手が攻撃を行うよりも早く繰り出され、そして戦車部隊の最前列をなぎ倒す。

「我らの邪魔をするのなら消し滅ぼす」

ヒュムノスが招くのは無慈悲に蹂躙する雷光。
その暴虐の光は排斥の意図もろとも最前列の戦車部隊を飲み込んだ。
『破滅の創世』の配下達の圧倒的な力量差の前に為す術がない。
それでもこの戦いを投げ捨てることなどできないとばかりに、『境界線機関』の者達の怒涛の反撃が展開される。