「神の力か……」

奏多は攻撃を弾いた自分の手を見つめる。
それは神の御技(みわざ)
奏多の手で燃えさかる炎はさながら、万物の始原に在ったという伝説のそれにも見えた。

「……奏多が神の力を行使できているのか。『破滅の創世』様の『記憶のカード』を、『破滅の創世』の配下達が所持しているのは間違いないな」
「そうね」

慧の確信めいた言葉に、観月は同意しつつも不安を零す。

「でも、神の力を行使できる今の奏多様が……もし、『破滅の創世』様の『記憶のカード』を目にしたら――」

その事実は観月の心胆を寒からしめた。

『破滅の創世』の配下達は誰よりも何よりも、一族の者に激しい悪意と殺意を振りまいていた。
『破滅の創世』の配下達は、『破滅の創世』である奏多を連れていこうとしている。
それを確実に成し遂げるために、奏多の『破滅の創世』としての記憶を完全に取り戻そうとしていた。

それが今の戦場の様相。

だが、そこに奏多の――『破滅の創世』の神意を加味すれば、最悪の事態が待つ。

「それが何を指していようともな」

それでも慧は握る銃の柄に力を込める。視線を決してアルリット達から外さずに弾丸を撃ち込む。

「……まぁ、今の俺達ができることは二つ。この大軍勢を食い止めること、そして奏多を信じることだけさ」
「……そうね。私も奏多様を信じるわ」

世界への影響を止めるためにも、『破滅の創世』の配下達をこの場に留める……それが、今の慧と観月にさし迫りし事態であった。

「慧にーさん、今度は向こうから攻撃の余波が来る!」
「ちっ!」

奏多がそう呼びかけた途端、夜霧の向こうから無数の光の槍が飛んでくる。
リディアが宙に顕現させた数多の光の槍を地上に投擲(とうてき)させたのだ。

『破滅の創世』が定めし世界を歪めた一族の者達に天罰を与えて、『破滅の創世』の意志を遂行する。
この世界の淀んだ流れを正すべく天に還すために――。

唐突に終わった神獣達との対峙は、すぐに新たな『破滅の創世』の配下達との戦いを生み出しただけだった。
赤く染めた大地。
燃え盛る炎の灯は遥か越えて、神の調べを奏でる。
『破滅の創世』の配下達の動きは、奏多達の――そして『境界線機関』の者達の想像とは一線を画していた。

この強靭な猛撃をまともに浴びれば、慧達は瞬時に消滅してしまうだろう。
だが――。

無数の光の槍が地上に降り注ぐ前に、その間にまばゆい閃光がほとぼしる。