「ああ。どう足掻いても、俺は『破滅の創世』としての記憶を失うことはできないと思う。だったら、そこに神としての意思の中に、俺の意思も感情も記憶も寄り添わせてほしいんだ……」

二つに切り離された意思を戻すのではなく、このまま保つ。
奏多は『破滅の創世』としての記憶を完全に取り戻した自分がどうやってもたどり着けないその未来に想いを馳せる。

「奏多、俺はおまえの決断を信じているぜ」

慧は過ぎ去った忌々しい日々を思い返す。
一族の過ちによって、数多の世界に多くの傷痕を残した。
人間と神の間に存在する、簡単には埋めることのできない根深い憎悪。
『破滅の創世』の配下の者達は不老不死だ。
それに対抗するために一度、滅した自分を利用する。
不死者。
それが今となっては、自分が生かされているという唯一無二の証。
だが、慧は呪いともいえる宿命に利用されるのではなく、真っ向から立ち向かうことを選んだ。

「まぁ、まずはこの状況を何とかしないとな」
「慧にーさん……」

奏多にそう語りかける慧は揺るがない意思を表情に湛えていた。

――世界を正すために犠牲が付きものだ。

そんな言葉に頷いてはいられない。未来のために世界一つ分の犠牲を孕む可能性をこのまま、見過ごせないと。

慧にーさんの言うとおり、まずはこの状況を何とかしないといけないな。

奏多の思考の海に聞こえてくるのは、神獣の軍勢が迫る音だ。
余韻に浸るには程遠いと、急ぐように近づいて来る。

人類の存亡を賭けた大一番、『境界線機関』の基地本部の防衛戦。

その戦況の厳しさは、基地本部から消えた人の影だけでなく、立ち並ぶ商店も計り知れる。
店内はもぬけの殻だった。
『破滅の創世』の配下達と一族の上層部。
互いに交錯する思惑。

「司様が前線に出ているとはいえ、持ちこたえるだけで精一杯だな」

司達、『境界線機関』の者達が抱いていた危惧は現実のものとなった。
倒しても倒しても神獣達は再生を遂げ、何度でも襲いかかってくる。
その圧倒な物量に押されて、それぞれが分断されたまま、合流して戦えないのだ。
まさに抵抗する術がない以上、どうにも手の打ちようがなかった。
他の場所でも戦闘が行われているのか、助勢は見込めそうもない。
『破滅の創世』の配下達がこの場を去らない限り、この悪夢のような大攻勢は途切れることはなかった。

「司、絶対に負けるなよ」

慧はお互い息災であれば再会しようと言葉を交わした司の無事を祈る。

「観月、後方支援は頼むぜ!」
「分かったわ」

慧は観月と力を合わせて敵の迎撃に専念する。
今度こそ、守り抜くと決意を固めて――。