「この世界が滅ぶ。だから、何だというのでしょうか。全ては『破滅の創世』様だけで充分です……。私達にとって、それ以外の者はいてもいなくても関係ない」

レンの信の行く果てに、司達の想いは相容れない。

「願わくはこの戦いで、『破滅の創世』様の神のご意志が戻ることを――」

『破滅の創世』の配下達は、『破滅の創世』の存在とともに在る。
死、消滅、終焉……。
形容しがたい『終わり』の気配とともに、だ。





『境界線機関』の基地本部の防衛戦が苛烈さを増した頃。

「ふー、奏多くん。『境界線機関』の基地本部の入口にようやくたどり着きましたよ」

『境界線機関』の基地本部の入口の前で、結愛は大きく伸びをする。
今回の『破滅の創世』の配下達の襲撃を受けて、多くの人達が別の基地に移動するために自動車やバスに乗り込んでいるのが見受けられた。

「『破滅の創世』の配下達の狙いは俺だ。何とかしないと……」

戦局を見据えていた奏多は置かれた状況を重くみる。

「『破滅の創世』の配下達の狙いは奏多様。恐らく、この混乱に乗じて基地本部に侵入してくるわね」

観月は遠くから響いてくる破壊の音に緊張を走らせる。
今は司達、『境界線機関』の者達が基地本部の防衛に回っている。
とはいえ、あくまでこれは超常の領域にある『破滅の創世』の配下への足止め程度。
倒すを確約するものではなく、どれほど妨げられるのかも未知数。

「一族の上層部はこの状況をどうするのかしら……?」

そう口火を切った観月は懸念を眸に湛えたままに重ねて問いかける。

「このまま傍観に徹するつもりなのかしら?」
「いや、そんなわけねぇだろう。この状況になることを予め、推測していた、と考えるべきだ」

状況を踏まえた慧はそう判断する。一族の上層部の矜持。その悪辣なやり方を紐解けば、全てが合致したからだ。

「だからこそ、前もって、奏多と接触を図り、『破滅の創世』様の記憶の再封印を施したんだろうな。もし『破滅の創世』の配下達が、『破滅の創世』様の記憶のカードを用いたとしてもさ。記憶を再封印されたことで、奏多が『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻すことはない」
「そうね。奏多様が一時的に神としての記憶を取り戻しても、妹を始め、懇意を寄せている者が近くにいれば、周囲に危害を加える可能性は低いわ」

慧の説明に、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は納得する。

「ああ。たとえ、『破滅の創世』様の記憶のカードを用いたことで神の力を行使できるようになっても、奏多が周囲に危害を加える可能性は低い」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。