「基地本部にたどり着く前に、何としても食い止めるぞ」

迎え撃つのは、司達を始めとした『境界線機関』の者達や自衛隊の大部隊。
内部まで侵入されて、奏多を奪われればこちらの敗北。そうならず、奏多を守りきれればこちらの勝利だ。
戦いの火蓋は今、切って落とされようとしていた。

「奏多様」

片膝をついた司は改めて奏多の意向を確かめる。

「俺達は『破滅の創世』様を守護する任務を帯びている。それでも俺は奏多様の意思を尊重したい」
「俺の意思を……?」

付け加えられた言葉に込められた感情に、奏多ははっと顔を上げた。

「『破滅の創世』の配下達の狙いは奏多様です。恐らく、この混乱に乗じて基地本部に侵入してくるものと思われます」

この状況下で司達、『境界線機関』の者達が奏多を守るためには迅速な対応が求められた。

「おまえ達はどうする? 奏多様とともに行動するのか? それともこの防衛戦に参加するのか?」

司が今回の作戦への心構えを慧達に問う。

「司、悪いな。俺は奏多とともにいるぜ。絶対に守ってみせるさ」

慧は守りきれるはずだと信じている。
神の意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている奏多の想いを。
それが『冠位魔撃者』――その名が献ぜられた慧にとって、前に進むための力となるはずだから。

「はい、私も奏多と一緒に行動しますよ」

結愛はありったけの勇気を振り絞って応えた。
そう――奏多と歩む未来を夢想しているから。

「私はこの戦いを乗り越えて、ずっと奏多くんの傍にいたいですから」

人間と神を阻む壁はあまりにも高く硬い。
それでも奏多と歩む未来が見たいから。その幸せが欲しい。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
いつかは共に進むことくらいはできるのかもしれないと結愛は信じて。

「もちろん、私も奏多様と一緒に行動するわ」

そう言った観月の言葉には決意が込められている。

「決められた運命なんかに絶対に負けたくないもの!」

観月の覚悟が決まる。
ここにいるみんなで神の加護に本気で抗う。
そして、『破滅の創世』の神意に立ち向かう。
観月は信じている。たとえ絶望的な状況でも奇跡が起こることを。
奏多達が定められた運命を壊してくれることを。

「分かった。俺はこのまま、防衛戦に回る。後で落ち合おう」

司は慌ただしく動き回る『境界線機関』の者達を見つめる。
その事情は様々だろうが――とにかく誰も彼も『破滅の創世』の配下達へ戦いを挑む心算なのは間違いなかった。

「たとえ、敵の実力に圧倒されてもな。俺はこの戦いを諦める気はないぜ」

それは司が示した確かな信念だった。
悪意に晒されながらも、それでも乗り越えて進むしかない……と言うように。