「私は奏多くんの――『破滅の創世』様の傍にずっといたいです!」

――願わくば、どうかこの一瞬を忘れじと。そう思いながら。

「いつか、奏多くんのお嫁さんになりたいですから!」
「奏多、お父さんとお母さんもあなたにずっと傍にいてほしいの……」

結愛と奏多の母親は愛しそうに奏多を抱きしめる。
たとえ痛みを生じても、苦しみに悶えても、自身は自身のまま、大切な人の傍にいたいと。
だって、それこそを奏多は望んだのだから。

「……っ、離せ。分を弁(わきまえ)ろ。痴れ者が」

その言葉とは裏腹に、結愛と奏多の母親が抱きしめてきても、奏多はその抱擁を解こうとしない。
ただただ、その温もりに困惑するように、結愛と奏多の母親を見つめている。
その光景を見守っていた一族の上層部はひそかにほくそ笑んだ。

「やはり、カードを奪われたことで、奏多様の神としての記憶を封印する力が弱まってきていたようだ。此ノ里結愛をこの場に連れてきて正解だった」

一族の上層部は記憶を封印する力を持つ此ノ里家の者達が逆らうことができないように、彼らの大切な人達の魂を支配して脅迫した。
しかし、結愛の大切な人の魂は支配されてない。
何故なら、結愛の大切な人は『奏多』だからだ。
彼女の存在自体が、たとえ奏多が人間でなくても共存できる、その証明になり得た。

「姉も同行させるべきか、迷ったが、人質のいない此ノ里観月は我々に歯向かう可能性が高いからな」

人質であるまどかを解放した観月は一族の上層部の思惑の妨害になりかねないと判断されて、この場には同行させていない。

「さあ、今のうちに『破滅の創世』様の記憶の再封印を……!」
「……はい」

一族の上層部が下した命に、此ノ里家の者達は苦悶の表情で奏多の記憶の再封印を施していった。





「あれ……? 結愛、母さん」

記憶の再封印を施された後、奏多は結愛と奏多の母親が自身を抱きしめていることに気づいた。

何があったんだ……?

奏多はまるで思い出したように疑問と動揺が一瞬で頭の中を埋め尽くした。
視線を巡らせれば、一族の上層部の者達が満足そうに笑みを綻ばせている。
スマートフォンで時間を確認すると夕方の時刻だった。
一族の上層部から記憶の再封印について話を聞いた後、何故か涙を零したことは覚えている。
そして、気がついたら夕方、結愛と奏多の母親に抱擁されていた。

具体的に現状を表すなら、記憶の再封印をするために決意を口にしようとしていたはずなのに、今は何故か結愛と奏多の母親に抱きしめられている。

どれだけ考えても今の状況に納得いく説明をつけることができなかった。