俺、また……何で泣いているんだ……?

怪訝に思う心とは裏腹に、奏多は言葉を吐き出す。それは先程、奏多が抱いた想いを否定するものだった。

「生きたくない」

口にしたそれは自分が発したとは思えない無機質な、しかし懐かしさを感じさせる声だった。

「奏多くん……?」

異変に気づいた結愛が慌てて奏多に触ろうとすると、

「あ――」

あまりにも突然だった。
奏多の表情が豹変し、結愛の手を弾いたのだ。
鋭い瞳に垣間見える明確な拒絶の意思。
結愛に向ける視線はまるで敵を見ているようだった。
奏多がここまで強い敵意を向けてくる理由はただ一つ。
結愛は奏多から一歩離れ、目を凝らしてようやく気づいた。

「もしかして、神様の奏多くん……」

奏多が何の反応も示さないことが、それを証明していた。
ただ、暗き眼光を向けてくる。

うううっ……。
でも……。

結愛は怯えつつも、奏多の顔を改めて、その眸に焼きつける。

『……俺は神の記憶がある時の自分がどんな感じなのか分からない。もしかしたら、カードを手にした瞬間、みんなの敵に回るかもしれない』

目の前には以前、奏多が語っていた懸念が顕在化していた。
奏多の優しい言葉が、結愛と呼んだその声が、目が合えば笑ったその笑顔が、今は見ることはできない。
温かな眼差しも、今は敵を見るような視線しか感じられない。
神と人間は根源的に繋がらない。
不可視の関係性。
それでも――

奏多くん、大好きです。

だからこそ、そんな奏多の――『破滅の創世』の底知れぬ冷たさの理由を知りたいと思ってしまった。

「たとえ『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻しても、奏多くんは奏多くんのままです!」

結愛がそう口にしたのは決して確証があったから、じゃない。
奏多のことが好きだから――。

「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」
「……っ」

臆病に伝えた結愛の心の端に、奏多の眸は揺らいだ。

「私はどんな奏多くんも大好きですよ。だから、怖いですけど……すごく不安ですけど……もう逃げません!」

きっと結愛は何度でも奏多への想いを紡ぐのだろう。
その不屈の果てに、望む未来の光明があると知っているから。
しかし、

「黙れ。愚者の戯れ言など知らぬ」

それだけで奏多が敵と断ずるには十分すぎた。

「戯れ言じゃないですよ! 本当の本気の本物です!」
「くだらんことだ」
「くだらないことじゃないですよ!」

そう意気込んだ結愛と奏多の視線が再び交差する。

様々な出来事を共有しながら、奏多とともに過ごしていくかけがえのない日々。
ありふれたものや胸を強く打ったもの。
傷痕のように深く残るものもあれば、それらさえも包み込む真綿のような暖かいものもある。
あるいは……。
それらを今、この瞬間、想いとしてぶつけることができるというのなら――。