「そういえば、日曜日の俺って『破滅の創世』としての記憶が戻っていたんだよな」

宿舎の部屋で両親とともに過ごしていた奏多は以前、抱いた疑問を改めて検証してみる。

「世界会合の日、一族のみんなで重要な話し合いをしていたと結愛は語っていた。でも、俺には土曜日の夜、両親と話した後、部屋で眠りについた後の記憶がない」

一日以上の意識の空白。その後、奏多がスマートフォンで時間を確認すると月曜日の夕方だった。
土曜日の夜、両親と話した後、部屋で眠りについたことまで覚えている。そして、気がついたら月曜日の夕方、見知らぬ会場にいた。

「父さんと母さんの話だと、俺の神としての記憶が戻ったことで大騒ぎになったらしいけど……」

その結果、世界会合を急遽、開いて、一族の上層部が此ノ里家の者達に奏多の記憶の封印を施すように迫ったという。

また、俺、余計なことを口走っていないよな。

その空虚な問いに、『破滅の創世』としての返事は返ってこない。
一族の者のうち、記憶を封印する力を持つ此ノ里家の者達が主体となって奏多の神としての記憶を封じ込めている。
しかし、数多の世界を管理する『破滅の創世』の記憶を完全には封じ切ることはできなかった。
だから、一族の上層部は奏多の神としての記憶が蘇る度に、此ノ里家の者達に封印を施すように迫ったのだ。

「それにしても記憶を封印されていたのにも関わらず、俺は今日何度も『破滅の創世』としての意志を感じた。もしかしたら彼女達に出会ったことで封印の力が弱まってきているかもしれないな」

奏多が何故、『破滅の創世』としての意志を感じたのか、その答えは周囲の状況が語ってくれる。

「『破滅の創世』の配下か……」

奏多は静かに呼気を吐きだした。
奏多が今日何度も『破滅の創世』の意志を感じたのは、アルリット達と出逢ったことによるものだと確信していた。

『現時点では一族の上層部の思惑どおりに事が進んでいる。だが、『破滅の創世』様の記憶のカードさえ手に入れれば、全てを覆すことができるはずだ』

奏多はあの時、リディアが語っていた内容を呼び起こす。

「全てを覆す。あれはどういう意味なんだろう……?」

奏多がどれだけ考えても、その答えに繋がる説明をつけることができなかった。
その真実は、何処にいるとも知れない『破滅の創世』の配下達だけが知っている。
ただ――

「アルリット、リディア……そしてヒュムノスか」

アルリット達のことを思い出していると、まるで意識が吸い込まれそうになる。
今の奏多にとって、まるで揺りかごのようにどこよりも近く、どこよりも遠い場所に『破滅の創世』の配下達の存在があった。