この世界に存在するとある邸宅。その邸宅に『破滅の創世』の配下達は集っていた。
アルリットとリディアも状況報告のために帰還している。

「今の『破滅の創世』様には、お初にお目にかかる方が多いでしょう。現在の『破滅の創世』様の名は川瀬奏多様。忌まわしき一族の冠位の者――川瀬家のご子息にあたります」

柔らかく自然体にそう礼を示した好青年は藍色の瞳に少しばかりの警戒を乗せている。

「……今の『破滅の創世』様は記憶を奪われて一族の者に加担させられております。一族の上層部が神の記憶を封印する手段を持ち得ていたことは私達、幹部の者にとっても大いに痛手でした」

『破滅の創世』の配下の者達の中でもひときわ常軌を逸している存在が『幹部』と呼ばれる者だ。
『忘却の王』ヒュムノスと『蒼天の王』アルリット、そしてこの場を仕切っている青年もまた、幹部の一人である。

「あの日、一族の上層部が用いた卑劣な手段によって僅かにできた隙、その隙を突かれ、『破滅の創世』様は記憶を奪われてしまったのです」

青年はアルリット達からの報告をもとに、新たに得た情報を語っていく。

「人の器に封じ込められ、神魂の具現として、ありえざる形の生を受けてしまった存在。それが――今の『破滅の創世』様の真実です」

かって三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』が記憶を封じられ、ただの人間に成り果てている。
『破滅の創世』の配下達の間で動揺が波及した。

「……幸い、アルリットとリディアによって、『破滅の創世』様の記憶のカードを確保できたのですが……。肝心の『破滅の創世』様はいまだ、一族の者の手中に……」

青年のその表情の険しさを見れば、『破滅の創世』はいまだに一族の上層部に利用されている状況なのだろうとは予想がついた。

「レン様。今こそ、神のご意志の完遂を――」

『破滅の創世』の配下達は口々にそう唱える。
彼らは始まりの事など覚えていない。
光陰矢の如し、神命の定めを受けて生を受けたからには、彼らには朝と夜の区別など、さして気になるものでもなかった。

ただ――『破滅の創世』が示した神命。それは絶対に成し遂げなくてはならない。
遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。

『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。その御心に応えるべく献身していた。

「レン。わたしは我が主の無念を晴らしたい」
「それは私も同じ気持ちです。一族の者の手から『破滅の創世』様をお救いしなくては……!」

リディアの宣誓に呼応するように、レンは一族打倒を掲げる。
『破滅の創世』の配下達の気持ちは皆同じだ。