「あら、結愛は嬉しそうね」

元気溌剌な結愛の――妹の様子に、観月は満足げな表情を浮かべる。
幼い頃、世界のあらゆることに怯えていた妹は、今ではいつだって勢いで奏多のもとに走って行く。
躊躇うことだって知らない彼女はまっすぐに生きているのだ。
だからこそ、観月が心配になることは多い。

「でもね、『境界線機関』の基地本部は逆方向だと思うわ」
「ううぅ……厳しいです」

観月の説明に、結愛はしょんぼりと意気消沈する。

「奏多様、こちらです」
「結愛、行こう!」
「はい、奏多くん。今度は道を間違えませんよ」

『境界線機関』のリーダーである司は基地本部の案内人に適していた。
『境界線機関』の者達も奏多と結愛の身を護りながら基地本部へ突き進む。
やがて、奏多達の視界に巨大な基地本部が見えてきた。

「ふー、ようやくたどり着きました」

『境界線機関』の基地本部の入口の前で、結愛は喜色満面に大きく伸びをする。
避難所としても設けられているようで、多くの人達が荷物を運ぶために行き来しているのが見受けられた。

「父さんと母さん、無事だよな」
「心配です……」

奏多と結愛の気がかりは両親の安否だ。
スマートフォンで連絡を取りたくても、一向に繋がらない状態だったのだ。

「あっ……奏多くん、メール、送れましたよ。やっと、スマートフォンが使える環境になりました」

それが新鮮なのか、結愛はくっーと胸が弾ける思いを噛みしめる。

「んもぉー、今まで大変でしたよ……。お父さんとお母さんに電話をかけても通じないし、メールを送ろうとしても送信できなかったのは困りものです」
「それだけ大変な事態だったんだろ」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。

「私にとって、奏多くんは奏多くんです。だから、他の神様や『破滅の創世』様の配下さん達、そして一族の上層部さん達には奏多くんを渡しませんよ」

あの苛烈な戦いの後も、確かに今こうして間違いなく奏多は『結愛の幼なじみ』としてこの世界に存在している。
その事実は途方もなく、結愛の心を温めた。

「えへへ……」

結愛の目線が隣の奏多へと注がれる。

「奏多くん。さっそく、お父さんとお母さんを探しましょう。お父さんとお母さんはきっと、奏多くんのお父さんとお母さんと一緒に基地本部に避難しているはずです」
「そうだな」

様々な思いが過りつつも、奏多と結愛は動き出す。
二人の関係。それはこの先も変わらないと、楽しげな二人の表情はそんな予感を感じさせた。

「奏多様のご両親は今、どこに?」
「はい。現在は宿舎で荷物の整理をしておられます」

司が基地本部で安否情報を確認したことで、奏多と結愛の両親はすぐにこちらに出向いてくれることになった。

「奏多くん、早く早く。お父さんとお母さん、待ちくたびれているかもです」
「急ぐと危ないだろ」

激戦を乗り越えてきたせいか、奏多と結愛にとって、両親との再会は久しぶりの安らぎのひとときだった。
今は養生の時だ。それを終えた時、彼らの戦いはまた始まるのだろう。