まどかはそのまま、『境界線機関』の者達によって捕縛される。

「まどか……」

観月は心配そうにまどかの悲痛な面持ちを見つめた。
あの戦場で(もたら)された事実は、それほどまでにまどかの心を抉るものだったのだろう。
このまま、和解することはできないのではないかと不安にさせられる。
そこに結愛と奏多が躊躇うようにいそいそと近づいてくる。

「お姉ちゃん、あの……その……」
「結愛……?」

上目遣いに窺うような結愛の声音。観月は不思議そうに目を瞬く。

「まどかお姉ちゃんはきっと……大丈夫です……。時間はかかるかもしれませんが……」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた観月をまっすぐに見つめた。

「まどかお姉ちゃんの洗脳は必ず解けますよ」
「結愛、ありがとう……」

結愛の宣言に、観月の心の奥底から熱が溢れる。
感情が震えて熱い涙が止まらない。

「結愛の予感は当たるもんな」
「はい。私の予感は当たるんです。だから大丈夫です!」

奏多が問いかければ、結愛は夜空を見て答える。
たとえ悪意に晒されても、みんなで力を合わせて乗り越えて進むしかない……と言うように。

「そうね、私も信じているわ」

観月は今はそれでいいと噛みしめながら、穏やかに微笑んだ。
まどかともう一度、一緒に歩むために、どんなに小さな可能性だって掴んでみせるから。
だから、これからも結愛には奏多とともに共に生きる道を選んでほしい。
それが観月(あね)の心からの願い事だった。

「とにかく、ここから離れるぞ」

事は急を要すると、司達『境界線機関』の者達は殺風景な荒地を突き進む。
先の戦いで生き延びた人々の姿を見やりながら、一族の上層部、そして『破滅の創世』の配下達と相対した時の行動について、道すがらの相談を開始した。

「司、これからどうする?」
「まずは『境界線機関』の基地本部に行くつもりだ。そこには奏多様のご両親、他の一族の者達もいるからな」

慧の疑問に、周囲を警戒していた司は剣呑に返す。
それを聞いた結愛はぱあっと表情を華やかせた。

「知っていましたか、奏多くん。『境界線機関』の基地本部はコンビニや食堂、宿舎など、いっぱい施設があるんですよ。大定番はショッピング施設ってやつですね!」
「ショッピング施設があるんだな」

結愛の言い分に、奏多は途方に暮れたようにため息を吐いた。

「結愛は『境界線機関』の基地本部に行ったことがあるんだな」
「はい。前にお父さんに連れていってもらったことがあるんです!」

奏多の戸惑いに元気の良い返事が返ってくる。結愛の食いつきが半端ない。

「さささ、どうぞどうぞ、奏多くん。基地本部の案内は任せてください」

目標が定まったことで、結愛は熱い意気込みを見せた。