「見通しが甘かったと言わざるを得ないな」

司は悔やむように唇を噛む。
この戦場で齎(もたら)された事実は、それほどまでに司達の心を抉るものだったのだろう。

「それでも一族の上層部の拠点の一つに乗り込んだ価値はあったさ」
「慧にーさん……」
「……ほええ、価値?」

それはただ事実を述べただけ。しかし、慧の言葉は、奏多と結愛には額面以上の重みがあった。

「萩野まどかを救出し、そして、一族の上層部の一人、冬城聖花が『破滅の創世』の配下達によって倒されたことを知ることができたからな」

慧は奏多達の想いを汲みつつ、これまでのいきさつから戦況を正しく見通す。

「でも、まどかはまだ、一族の上層部が有する神の加護による洗脳を受けているわ……」

観月は肝心の問題は残っていると、慧に抱きかかえられたまどかの容態を気にかける。
聖花から引き離したとはいえ、まどかはいまだ、一族の上層部が有する神の加護による洗脳を受けている。
一族の上層部が有しているその絶大な力。
狂気じみたそれはもはや集団洗脳に等しい。
意識が戻れば、まどかは再び、観月達に敵意を示してくるだろう。
だが――次に結愛が放った言葉は、観月の予想だにしないものだった。

「お姉ちゃん、大丈夫ですよ」
「結愛……?」

導くような結愛の優しい声音。観月は不思議そうに頭を振る。

「『破滅の創世』様の配下さん達は、一族の上層部さんが神の加護を行使していることをよく思っていません。『破滅の創世』様の配下さん達が『破滅の創世』様の記憶のカードを手に入れた場合も、一族の上層部さんはきっと神の加護を容易に行使できなくなります」

観月に向ける結愛のまっすぐな瞳は変わらない。いつだって紛うなき本音を晒しているのが窺えた。

「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」

諦めているくせに、どこかで信じて、それに縋っている。
そんな心を結愛は身を持ってよく知っていた。

「でも、お姉ちゃん、安心してください。大丈夫です」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた観月をまっすぐに見つめた。

「一族の上層部さんはきっと、これまでのように神の加護を容易に行使できなくなります。それにまどかお姉ちゃんの洗脳も必ず解けますよ」

この言葉が、観月が自由へと羽ばたくその一助となることを結愛は切に願う。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
いつか近い未来、観月とまどかが元気に笑い合う姿を想い浮かべながら。

「だから、お姉ちゃん、心配しないでくださいね」
「結愛、ありがとう……」

結愛の宣言に、観月の心の奥底から熱が溢れる。
感情が震えて熱い涙が止まらない。

「結愛の予感は当たるもんな」
「はい。私の予感は当たるんです。だから大丈夫です!」

奏多が問いかければ、結愛は夜空を見て答える。
抱く志。思うことが同じであれば、互いに進む先は決まっていた。