「さてと……」

アルリットは粉々になったカードに手をかざす。
その手から淡い光が放たれた瞬間、アルリットの姿は聖花のそれへと変わっていく。
やがて、その手から光が消えると、『破滅の創世』の記憶のカードは元通りになっていた。

「うん、復元成功」

銀髪と紫眼の少女がころころと嬉しそうに笑う。
純真なまでの笑顔には悪意の欠片もありはしない。
一目見ただけでは、この場に居合わせた誰もが彼女を聖花だと疑わなかっただろう。
本物の聖花がその近くで倒れ伏せていなければ。

「ねー。あたし、真似るのは得意なの。この人間の能力と同じだね」

紫の瞳と銀色の髪が特徴的な少女。
裾を掴んでいるドレスを思わせる衣装は青や紫色の花をあしらわれている。
いまや、アルリットの見た目は聖花そのものだ。

「このまま、一族の上層部の一人として潜入できそうだよね」
「アルリットは演技力皆無だから、すぐにバレるだろう……」

アルリットの明るい声音に、リディアはため息を吐きながら応対する。

「しかし、潜入か。わたし達の目的を遂行する足掛かりになるかもしれないな」

リディアは一族の上層部に気づかれぬように秘密裏に奏多と――『破滅の創世』と接触する方法を模索していった。





一族の上層部の一人である聖花の拠点から離れてからしばらく経った後、やがて、奏多達の視界には筑紫野学園の跡地が見えてきた。

「奏多くん、皆さんがいますよ」

結愛が指差す先を見据えれば、先の戦いを生き延びた学園の教師や生徒達の姿が見えてくる。

「みんなが無事で良かった……」
「はい、奏多くん」

みんなと合流を果たした奏多と結愛は安堵の胸をなでおろす。
再会の喜びも束の間、慧は確認するように置かれている状況を踏まえる。

「何とか、ここまで戻ってこれたな」
「ああ。だが、ここも安全ではない。即急に別の場所に移動する必要がある」

司は警戒を示すように言葉を切った。
周りの景色が妙に寒々しいものに思える。まるで張り詰めた緊張感に身震いするようだ。
この状況は誰かの悪意に彩られて作られているような、そんな予感さえも感じられる。

「危険を犯して、一族の上層部の拠点に乗り込んだ結果がこれか。……成果は散々だな」

司は改めて、『破滅の創世』の配下達の手強さを肌で感じ取っていた。
聖花の陰謀を止めることに成功したが、結果的に『破滅の創世』の配下達が『破滅の創世』の記憶のカードを確保することになった。
監視カメラがない状況は一族の上層部の裏をかくことができる状況。
それは間違いない事実である。
しかし、『破滅の創世』の配下達にも同様のことがいえた。
だが、彼女達は既に撤退したという思い込みが、『破滅の創世』の配下達が『破滅の創世』の記憶のカードを確保するという最悪の循環を生んでしまう結果になった。