矢継ぎ早の展開。
それも唐突すぎる流れに、司は顔をしかめる。

「まずいな……」

驚愕と焦燥。
司が走らせた瞬間的の感情に状況は明白となった。

一族の上層部の一人である聖花が倒れ、『破滅の創世』の配下達が『破滅の創世』の記憶のカードを確保した。

その歴然たる事実を前にして、司の取った行動は早かった。

「奏多様、こちらへ!」
「結愛、行こう」
「はい、奏多くん」

置かれた状況を踏まえた司は即座に逃げの一手を選ぶ。
迷いも躊躇いもない。
生き延びた『境界線機関』の者達も奏多と結愛の身を護りながら撤退する。

「なっ……!」

リディアは一瞬、追いかけるべきか躊躇う。
だが、その迷った数瞬が明暗を分ける一線だった。

「奏多は絶対に死守するさ」
「奏多様は絶対に護るわ」

慧の確固たる決意に、カードをかざした観月は応えた。

「悪いが、ここから先は行かせねぇぜ」

慧は奏多達が撤退する猶予を作るように発砲した。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、弾は全て塵のように消えていく。
決定打に欠ける連撃。
それでも奏多と結愛の安全さえ確保できれば、慧と観月が懸念する要項が減る。
あとは全力でこの場から離脱するのみ――けれども致命状態には気をつけながら、慧は観月と連携して次の攻撃に移った。

「さて、ここからが踏ん張りどころだ」

司を始め、『境界線機関』の者達も相応の覚悟を持って、この撤退を行っている。

最優先事項は奏多の身の安全――。

『境界線機関』の者達は今回、奏多を守護する任務を帯びている。
その守りは固く、そう簡単には隙は見せない。
防衛戦を仕掛ければ、十分に凌ぐことはできるはずだ。
だからこそ――

「……逃がしたか」

颯爽とその場から姿を消した司達の手際の良さに、リディアは舌を巻く。

「そっか。リディア、ちょっと待って、まずはこの人間の能力で『破滅の創世』様の記憶のカードを復元させなきゃならないから」

そう言うアルリットは奏多達がこの場から離脱したことに落胆していない。
むしろ、『破滅の創世』の記憶のカードをリディアとともに確保できたことが喜ばしいとばかりに笑んでいる。
やがて、聖花の背中に置いていたアルリットの手が一際大きく光を放った。

「――うん、強奪成功。この人間の能力なら『破滅の創世』様の記憶のカードを復元させられるね」

そう、復元できる――あるいは元の状態に戻せるとでも言い換えてもいい。
その言葉の裏には『聖花の能力には利用価値がある』という事実がある。
『破滅の創世』の配下達に『破滅の創世』の記憶のカードを渡すまいとした聖花の強い意志。
しかし、その過程の最中で粉々になったカードは、自身の能力を利用された今ではただ無為の証左にしかなりえなかった。