浅湖家(あさみけ)や此ノ里家を始め一族の冠位の者の役割は、敵である神々と『破滅の創世』の配下の部隊に対して警戒を行うことであった。
彼らもまた、形だけでも整えた急造部隊として、隙を巧妙にうかがう『破滅の創世』の配下への牽制を行う任務を帯びている。

「『破滅の創世』の配下に狙われているというのに相変わらず呑気な奴らだな」
「あら、結愛は嬉しそうね」

結愛の――妹の様子に満足げな()(さと)観月(みづき)に、浅湖(あさみ)(けい)は顔をしかめつつ問うた。
まるで甘やかしも時には毒になるということを、彼は理解した方がいいとでも言いたげだ。

「つーか、どうして『破滅の創世』の配下の奴らはあいつを積極的に奪いにこねぇんだ?」
「神の記憶を封じられている状態の今の奏多様の出方が分からないからよ」

説明を一区切りさせてから、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は嘆息する。

「それに神の記憶を取り戻した時の奏多様は記憶を封印されている時の出来事を覚えている。妹を始め、懇意を寄せている者が近くにいれば、周囲に危害を加える可能性は低いわ」

付け加えられた言葉に込められた感情に、さしもの慧も微かに目を見開いた。
戦局を混乱に導きたいなら、確かにそれで事足りるだろう。

「それが神としての記憶を封じ込めた理由の一つってわけか」

この世の悪意を凝集したような一族の上層部のやり方に、慧は、そして居並ぶ浅湖家の者達は激しい嫌悪を覚えたのは間違いない。

「随分と悪辣だな。一族の上層部らしいやり方だけどな」

慧の言い草に、観月はふっと微笑む。
如何に不明瞭な未来でも、儚い安寧に縋る。
それが一族の上層部の最後の矜持だったのだろう。

「まるで幽鬼ね」
「そうだな。まぁ、もっとも俺がここにいること事態、亡霊と話しているようなものみたいだけどな」
「亡霊……?」

そう話す慧はいつものように快活だった。話を聞いている観月だけが目を瞬かせては大きく瞳を開いている。

「そのままの意味さ。俺は本来、生きているはずがないんだよ」

『敵』に見逃がされたのは、あの時点で『揉め事』を増やすつもりがなかったからだろう。それに自分はまだ、利用価値があると思われたのかもしれない。

「どういうこと?」

彼の過去に繋がる話に観月が耳を傾けた、その刹那――

「ようやく、わたしにもアルリットとともに君達を抹殺することの許可が下りたよ」

不意にこの場にそぐわない涼やかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこには白い二つの影――二人の少女のような存在がいた。