『どんどん大きくなるな、慧と蒼真は』
『ふふ、本当ね。このまま、蒼真がずっと生きていてくれて家族四人で過ごせたら何もいらないわ』

どこからか優しげな誰かの声が聞こえてくる。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚があった。

『慧にーさん、慧にーさん!』
『つーか、蒼真、あまり無理するなよ』

兄弟は公園を燥いで駆け巡り、そのたびにどうでもいいことで一喜一憂する。

誰かに生きた証を見てほしかった。傍にいてほしかった。
――それを望んだのは誰の心だったのだろうか。

だけど、願わくば見て見たかった。
この胸の奥底を灼く焦燥にも似た、けれどより甘やかな感情の正体は何なのかを。

「慧にーさん……」

奏多は懐かしむように慧に髪をなぞられる感触に身を任せる。

「ありがとう」

きっといつまでも、この記憶を忘れない。
この温かさを忘れない。
きっと、これからもずっと覚えている。
そんな着地点へ落ち着くなり、奏多の身が軽くなった。

「結愛、もう大丈夫だ。行こう!」
「はい、奏多くん!」

奏多と結愛は改めて戦意を確かめ合う。

「奏多、敵の視線をこちらに向けさせる。結愛と一緒に援護してくれ」
「分かった。慧にーさん」

奏多は即座に打開に動くべく、慧達のもとへと進んでいった。
今の自分がすべきことは、みんなとともに『破滅の創世』の記憶のカードを確保することなのだから。





「『破滅の創世』様……」

アルリットは酷な現実に心を痛める。
奏多が『破滅の創世』としての気持ちを押し殺し、その意志をゆっくりと心の湖に沈めたことを感じ取ったからだ。

「……辛いね」
「……っ」

そう吐露したアルリットの瞳と奏多の瞳が重なる。その瞬間、奏多の胸が苦しくて息苦しくなる。
その感情はあの時、奏多の中で湧き上がった想いだったからだ。

「それは――」

困惑する奏多の反応も想定どおりだったというように、アルリットの表情は変わらない。

「……辛い気持ちを我慢しないで。あたし達、『破滅の創世』様のためにできることなら何でもするから」

たった一つの想い。
何もかもを取り戻せるなら、アルリットはあの頃の『破滅の創世』を取り戻したいと願っていた。

「わたし達の想いをどう感じるのかは我が主の自由だ。だけど、わたし達は一族の者の愚行によって……絶望を見ているんだよ」
「絶望……」

リディアが発した発露は奏多の神意を確かめるような物言いだった。

「現時点では一族の上層部の思惑どおりに事が進んでいる。だが、『破滅の創世』様の記憶のカードさえ手に入れれば、全てを覆すことができるはずだ」
「……うん。リディア、頑張ろうね」

リディアの宣誓に呼応するように、顔を上げたアルリットは一族打倒を掲げた。