唐突に終わった聖花との対峙は、すぐに新たな『破滅の創世』の配下達との戦いを生み出しただけだった。
赤く染めた大地。
燃え盛る炎の灯は遥か越えて、神の調べを奏でる。
『破滅の創世』の配下達の動きは、奏多達の――そして一族の上層部の者達の想像とは一線を画していた。

「手応えがないな」
「そうだね」

アルリットは同意しつつも、リディアに改めて直言した。

「でも、リディア、やり過ぎだよ。今回、あたし達が遂行するのは『破滅の創世』様の『記憶のカード』の確保なんだし」
「分かっているよ、アルリット。カードを所持しているあの人間は生かしている」

アルリットの言葉に呼応するように、リディアは目を細めて深く笑う。
奏多の――『破滅の創世』の記憶が戻るのを待ちわびるように。

「みんな、大丈夫か?」
「はい、奏多くん」

結愛達の身に唐突に訪れた窮地。
しかし、それは奏多が手をかざしたことで危機を脱していた。
奏多の周囲にいる者達は全員無事だ。

「奏多、助かったぜ」
「まどか……無事で良かったわ」

安堵する慧に抱きかかえられたまどかの姿を見て、観月は眸に喜色の色を堪える。

「何とか、奏多様の力で難を逃れることはできたが……状況は最悪だな」

視線を張り巡らせた司は置かれた状況を重くみた。
この時点で他の一族の上層部の者達の介入がないことから、聖花は捨て駒にされた可能性が高い。
『破滅の創世』の配下達との戦いはこの世界に未曾有の惨事を引き起こしている。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界に滅びをもたらす存在で在り続けていた。
此度の戦場も、建物が一瞬で崩壊するという蹂躙とでも呼ぶべき景色があった。





「……っ」

曖昧だった意識が浮上していくにつれて、指先や背中の触感も戻ってくる。
聖花の身に一番最初に訪れたのは痛みだった。
全身をくまなく覆う痛みと倦怠感。

「何が起きたというの?」

聖花は完全に置いていかれた状況。
人間を超えた存在が超越の力を振るえば、人間には認識しようがない。
本来なら直撃を喰らった聖花が生きていることなど、万に一つもあり得ない。
だが、聖花は『破滅の創世』の『記憶のカード』を所持している。
だからこそ、リディアは意図的に聖花を生かす一撃を放ったのだろう。

「司、死ぬなよ」

まどかを『境界線機関』の者に託した慧の心からの願い。
その眼差しはまっすぐで、強い意志の光に満ちていた。

「当たり前だ。ここで死ぬつもりはない。おまえ達こそ無理はするな」

それは司とて同じ。慧達に対して同じ想いを抱いている。

「……まぁ、今の俺達のやるべきことは一つ。この状況を凌いで、『破滅の創世』様の記憶のカードを確保することだけさ」
「そうだな……」

慧と司は瞳に意志を宿す。『破滅の創世』の配下達の、そして一族の上層部の好き勝手にはさせないと――強い意志を。決して譲れない想いがあった。

「まだ、これからだ」

身を割くような痛みが迸っている。だけど、慧の顔にあるのは笑顔だけだ。

「奏多。もう二度とおまえを犠牲にするつもりはないからな。絶対に守ってみせるさ」

奏多を見つめる慧の眼差しはどこまでも優しかった。