「罠に嵌められたのは……思い込みを利用されていたのは私達、一族の上層部の方だったわけですね」

そこに疑いを挟む余地はない。
聖花が口にしたその言葉が全てを物語っていた。

「そっか。やっと罠に嵌められたことに気づいたんだね」

その一言一句に恐怖に駆られ、顔を強張らせる聖花。逆にアルリットは喜ばしいとばかりに笑んでいる。

「『破滅の創世』様が示した悲憤の神命。それは絶対に成し遂げなきゃならないことだから」

その為に動いている。
そう――目的はたった一つだけ。
遥か彼方より、『破滅の創世』の配下達の望みはそれだけだった。
だからこそ、大願とも呼べるその本懐を遂げるために一族の上層部をも利用しただけに過ぎないのだ。

静寂が満ちた。

一族の上層部にとって、最大の誤算は『破滅の創世』の配下達の存在だった。
彼女達さえいなければと思うことは幾度も起こり、そして今もまた起ころうとしている。
それでも戦うことを、挑むことをやめないのは、それが一族の上層部の矜恃に連なるものゆえか。

「無駄よ」

聖花は頭の芯を冷やした。
『破滅の創世』の『記憶のカード』。
切欠があれば、逆に聖花が主導権を握ることも可能ではないのか。
聖花は一縷の可能性を導き出す。

「『破滅の創世』様には、人として生きたことで、『思い出』という名の保険があるもの。それに一族の上層部は既に記憶を再封印する手立てを考えているわ」

聖花が語るその言葉が真実だというならば、これから起こるのは最悪だ。

「想いが、人を生かし。想いが、人を殺すとすれば。――想いとは神にとって罪なのかもしれないわね」

一つ一つの呪いのようなその感情は神にとっては小さいものだが、長い年月とともに蓄積されたものは計り知れず、雁字搦めになっていく。
このままでは、奏多は一族の上層部の思惑に囚われたままになるだろう。
しかし、聖花はその状況の成立を何よりも待ち望んでいた。

「でもね、その罪がこの世界を救う唯一無二の方法だから」

そう――もうすぐで手が届くのだ。
一族の上層部にとって、唯一無二の願い。

人間として生きたい。
それを奏多が選ぶだけで――。

このまま『破滅の創世』を人という器に封じ込め続け、神の力を自らの目的に利用するという一族の悲願こそがこの世界を救う唯一の方法だと聖花は知っているのだから。

「このまま受け入れてね、川瀬奏多くん。人間としての人生を」
「卑劣な手段によって人の器に封じた上に、我が主を人と誹るか」

一瞬の隙を見定めたリディアはここを正念場と捉えて――強靭の一撃を込める。

「ちっ、容赦ないな……!」
「……なっ」

慧と観月が目にしたそれは、まさに超越の一撃だった。
元々、彼女達が繰り出す攻撃は群を抜いて強力であったが――リディアがこの瞬間と定めて切り札を投じたそれは神威の如く。
光は瞬きて戦場を貫き、聖花はおろか、周囲の慧と観月、司達『境界線機関』の者すら穿った。