「ど、どうして……?」
「ほええ、最悪です。『破滅の創世』様の配下さん達が撤退していないですよ!」

奏多と結愛は混乱する頭でどうにか言葉を絞り出す。

「ちっ、『破滅の創世』の配下の奴らか」
「そんな……。同じ地に長時間、留まることはできないはずなのに……」

慧と観月の反応も想定どおりだったというように、少女達の表情は変わらない。

「うん、そうだね。同じ地に長時間、留まることはできないけど、言い換えれば同じ地ではなければ留まることはできるよ」

観月が抱いた疑問に、蒼い瞳の少女――アルリットが嬉々として応える。

「ねー、一族の上層部さん」
「……そうなりますわね。盲点でしたわ」

アルリットの目に宿った殺意を前にして、聖花は畏怖という感情を眸に乗せた。
殺意の一言で説明できないほど、その感情は深く深く渦巻いていたから。

「『破滅の創世』様の神の権能の力に目を付けて、私欲のために利用している愚か者」

銀髪の少女――リディアが発した戦意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。
最強の力を持つとされる神『破滅の創世』を人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用する。その一族の行為は『破滅の創世』のみではなく、他の神全てに対しての裏切りだ。
『破滅の創世』の配下であるリディア達にとって決して看過できない行為だった。

「先程、抵抗など無力だと言ったな。その言葉そっくりそのままお返しするよ」

リディアはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。

「――っ!」

たったそれだけの動作で、リディアは聖花とその周囲の者達を楽々と弾き飛ばした。
現在、聖花が用いている幻覚の能力の効果など、物ともせず干渉してくる。
喰らった力の凄まじさは聖花達がうめき、身動きが取れなくなるほどだ。

「リディア、分かってるとは思うけど、今回の目的は――」
「分かっているよ、アルリット」

リディアは振り返って、アルリットに微笑んだ。

「今回、わたし達が遂行することはあの者が匿っている『破滅の創世』様の『記憶のカード』の確保だ。この場にいる一族の者の抹殺は二の次なのだろう」
「うん、頑張ろうね」

リディアとアルリットは会話を交わすことで、次なる連携を察し合う。
一族の者の戦力を出来るだけ削ぎながら、彼女達は本懐を求めることを第一にするのだろう。

「……迂闊でしたわ」

状況を把握した聖花は唇を噛む。
相手の能力をコピーする力を持つ家系に生まれたこと。
監視カメラが設置されていたこの建物が唯一、アルリットに破壊されずに残ったこと。
そう――全部が全部、偶然でできていた。
そこまで来たら、この状況は必然だって思いたくなる。

この必然は奏多に――『破滅の創世』に接触する絶好の機会なのだと。

しかし、その必然が『破滅の創世』の配下達によって仕組まれていたものだとしたら――