「だって、あなた方は私に触れることはできないもの」
今回、聖花が用いたのは幻覚の能力。
『境界線機関』の者達は各々の得物が彼女に触れることもできず、透過するのを目にする。
だが、不可解な現象に混乱している余裕はなかった。
「くっ……!」
「何処だ……?」
聖花は俊敏な動きと幻惑するような戦い方で、『境界線機関』の者達を翻弄する。
「だからね」
そう告げると、聖花は一度、深呼吸をして司の前に立った。
事を始める前に確認はしておきたかったからだ。もし、その可能性があるならば、この戦いは回避できる。
「全ての戦力を放棄して、一族の上層部に従いなさい」
一瞬、司は戸惑うような気配をみせたが緩やかに首を振った。
「断ると言ったら?」
司の言葉を予測していたように、聖花は穏やかに言葉を紡ぐ。
「私達、一族の上層部はあなた達『境界線機関』の方々と敵対したくはないの」
恐らく、聖花の言葉は本心だろう。
司を始め、『境界線機関』の者達は一族の上層部を毛嫌いしているようだが、しかし、その働きに感謝をせぬような無礼者でもなかった。
一族の上層部もそれを理解している。
奇妙な協力関係は、しかし利害の一致という危うい綱引きの上で成立していた。
「それに私達が有している神の加護の前では、あなた方の抵抗など無力だわ」
聖花から紡がれる声色に宿るのは面白がるような含み笑い。或いは嘲笑とも感じられようか。
今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、突入部隊は一族の者達だけで構成している。
しかし、それ以外の者達は神の加護を防ぐ手立てはない。
聖花がその気になれば、この場にいない者達を洗脳して同士討ちをさせることも可能だろう。
このままではまずいな……。
『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何より聖花の余裕のある佇まいが警鐘を鳴らす。
司と聖花。互いに緊迫した空気が流れたその刹那――
「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」
声は思わぬところから聞こえてきた。
「愚かなものだ。このような場所でわたし達の目を欺けると思っているとは」
口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
「ようやく、一族の上層部の拠点の一つが判明したよ」
「うん。撤退したと見せかけて、ケイ達の様子を窺っていて正解だったね」
不意にこの場にそぐわない涼やかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこには見覚えのある二人の少女が佇んでいた。
今回、聖花が用いたのは幻覚の能力。
『境界線機関』の者達は各々の得物が彼女に触れることもできず、透過するのを目にする。
だが、不可解な現象に混乱している余裕はなかった。
「くっ……!」
「何処だ……?」
聖花は俊敏な動きと幻惑するような戦い方で、『境界線機関』の者達を翻弄する。
「だからね」
そう告げると、聖花は一度、深呼吸をして司の前に立った。
事を始める前に確認はしておきたかったからだ。もし、その可能性があるならば、この戦いは回避できる。
「全ての戦力を放棄して、一族の上層部に従いなさい」
一瞬、司は戸惑うような気配をみせたが緩やかに首を振った。
「断ると言ったら?」
司の言葉を予測していたように、聖花は穏やかに言葉を紡ぐ。
「私達、一族の上層部はあなた達『境界線機関』の方々と敵対したくはないの」
恐らく、聖花の言葉は本心だろう。
司を始め、『境界線機関』の者達は一族の上層部を毛嫌いしているようだが、しかし、その働きに感謝をせぬような無礼者でもなかった。
一族の上層部もそれを理解している。
奇妙な協力関係は、しかし利害の一致という危うい綱引きの上で成立していた。
「それに私達が有している神の加護の前では、あなた方の抵抗など無力だわ」
聖花から紡がれる声色に宿るのは面白がるような含み笑い。或いは嘲笑とも感じられようか。
今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、突入部隊は一族の者達だけで構成している。
しかし、それ以外の者達は神の加護を防ぐ手立てはない。
聖花がその気になれば、この場にいない者達を洗脳して同士討ちをさせることも可能だろう。
このままではまずいな……。
『境界線機関』のリーダーとして、超一線級の戦いを繰り広げてきた司だからこそ感じる座りの悪さ。
何より聖花の余裕のある佇まいが警鐘を鳴らす。
司と聖花。互いに緊迫した空気が流れたその刹那――
「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」
声は思わぬところから聞こえてきた。
「愚かなものだ。このような場所でわたし達の目を欺けると思っているとは」
口にすれば、それ相応の苛立ちと嫌悪がにじみ出てくる。
「ようやく、一族の上層部の拠点の一つが判明したよ」
「うん。撤退したと見せかけて、ケイ達の様子を窺っていて正解だったね」
不意にこの場にそぐわない涼やかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこには見覚えのある二人の少女が佇んでいた。