つまり、聖花の目的は現状維持だ。このまま一族の上層部が『破滅の創世』の記憶のカードを所持できるようにその思考に走らせる。
現状を維持する。そう思い至るように奏多と結愛の心を揺さぶったのだ。

「否定はしませんわ」

そう口火を切った聖花は笑みをたたえたままに重ねて問いかけてくる。

「だってこのまま、私達、一族の上層部が『破滅の創世』様の記憶のカードを所持していた方が皆様は幸せになれるもの。そう思わない?」
「そう思わないからここに来たんだ」

司の率直な物言いに、聖花はその唇に「そうでしたわね」と純粋な言葉を形取らせた。

「自分達の目的のために、奏多達の心を利用する。随分と悪辣な手口だな。まぁ、一族の上層部らしいやり方だけどな」
「そうね」

この世の悪意を凝集したような一族の上層部のやり方に、慧だけではなく、観月も激しい嫌悪を覚えたのは間違いない。

「悪辣? 駆け引きを楽しむのだって必要なことだわ」

聖花は穏やかな声音で微笑んだ。片手で頬に手を添える様はどことなく愛らしい。
無限の力を持つ神の加護を得る方法、数多の世界そのものを改変させることが可能な全知全能の神――『破滅の創世』を手中に収める方法の確立は一族の上層部からすれば『悲願』と言えた。
彼女達は数多の世界そのものを改変させることが可能な全知全能の神――『破滅の創世』を維持するためにあらゆる謀略を巡らせている。
だからこそ――聖花は戦略で勝機を掴む。

「正直、私だけでは『境界線機関』の方々とやり合うことなんてできないもの」
「そもそもおまえは俺達とやり合うつもりなど、はなからないだろう」

司の意見はもっともだった。
『境界線機関』はこの世界の未来を担う、練度の高い精強な部隊である。
それに今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、突入部隊は一族の者達だけで構成している。
猛者ぞろいである『境界線機関』の者達相手に、聖花のみで抗するのは無謀だ。
それなのに――彼女の表情には動揺の色は一切見られない。
まるで微笑ましい出来事があったように、穏やかな笑みを堪えていた。

「そうですわね」

聖花は自分を取り囲む『境界線機関』の者達を改めて見渡した。
それをきっかけに、得物を手にした『境界線機関』の者達が次々に突撃を敢行する。

「あなた方とやり合うつもりは微塵もありませんわ」

聖花は忌まわしくも見慣れた悪意を視界に収めた。

「これは……!」

想定外の出来事を前にして、『境界線機関』の者達は驚愕する。
聖花の能力。相手の能力をコピーすることのできるそれは、この状況下でも絶対的な強さを発揮した。