「たとえ『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻しても、奏多くんは奏多くんのままです!」
結愛がそう口にしたのは決して確証があったから、じゃない。
奏多のことが好きだから――。
「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」
臆病に伝えた結愛の心の端を、奏多は手を繋ぐことでゆっくりと受け止めてくれる。
だけど、一歩ずつしか踏み出せないままで少しばかり、物足りなさを感じ始めたから。
結愛は伝えたい言葉にもう少しの意味を添えてみた。
「でも、奏多くん、安心してください。大丈夫です」
結愛は一度だけ目を伏せ、そして奏多へと視線を向けた。
「何故なら、そうなる予感があるのです」
そう――予感があるから。
あの日、聖なる演奏を聞いた時、気づいたのだ。『破滅の創世』の記憶がある時の奏多も『奏多』だと。
奏多と一緒なら自身が見たい景色を見つけ、その場所へと走っていけると信じているから。
「ほらほら、私の予感は当たるんです。だから、奏多くん、大丈夫です!」
「そうだったな」
結愛の素直な物言いに、奏多は思わず苦笑する。
最上階にきた時よりもぴんと伸びた背筋も、まっすぐな瞳に映された希望も。なによりも、それら全てがこれより先を進むことを決意した彼女の覚悟の表れのようで。
だからこそ――
「そうね。此ノ里結愛さん、あなたの言うとおりだわ」
聖花は結愛がそう言うのを待ち望んでいたように微笑んだ。
「『破滅の創世』様は記憶を封印されている時の出来事を覚えているもの。たとえ、カードを手にして記憶を完全に取り戻しても、『破滅の創世』様が周囲に危害を加える可能性は低いわ」
如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。
「だって、川瀬奏多くんはあなたの幼なじみだもの。あなたが望めば、きっと応えてくれるわ」
聖花の語り口は、確かに結愛が心の底で望んでいた言葉だったのだろう。
「奏多くんが応えてくれる……」
奏多の名を口にするだけで愛おしさがこみ上げる。
同時に切望する思いが広がった。
奏多に伝えたい想いはたくさんある。これから長い時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。
「でもね」
結愛の切なる願いを踏まえた上で、聖花は息を飲む程に甘美な問答を求める。
「もし、完全に記憶を取り戻したら、きっと川瀬奏多くんという疑似人格は消えるわ。何故なら、川瀬奏多くんは『破滅の創世』様の本来の姿じゃないから」
その語りかけは――その心の奥に結愛を利用する打算があるとは決して思えないような真摯な瞳と優しさに満ちた声音だった。
「此ノ里結愛さん。あなたは川瀬奏多くんと『破滅の創世』様、どちらを望んでいるの?」
「はううっ、それは……」
聖花の指摘に、結愛はわたわたと明確に言葉を詰まらせる。
「ねえ。このまま、私達、一族の上層部が『破滅の創世』様の記憶のカードを所持していた方が、あなたと川瀬奏多くんは幸せになれると思わない?」
「――白々しいな」
聖花の包み込むようなその問いかけに――応えたのは司だった。
「そう言いつつ、単純におまえ達が『破滅の創世』様の記憶のカードを所持していたいだけだろう」
状況を踏まえた司はそう判断する。
一族の上層部の矜持。その悪辣なやり方を紐解けば、全てが合致したからだ。
結愛がそう口にしたのは決して確証があったから、じゃない。
奏多のことが好きだから――。
「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」
臆病に伝えた結愛の心の端を、奏多は手を繋ぐことでゆっくりと受け止めてくれる。
だけど、一歩ずつしか踏み出せないままで少しばかり、物足りなさを感じ始めたから。
結愛は伝えたい言葉にもう少しの意味を添えてみた。
「でも、奏多くん、安心してください。大丈夫です」
結愛は一度だけ目を伏せ、そして奏多へと視線を向けた。
「何故なら、そうなる予感があるのです」
そう――予感があるから。
あの日、聖なる演奏を聞いた時、気づいたのだ。『破滅の創世』の記憶がある時の奏多も『奏多』だと。
奏多と一緒なら自身が見たい景色を見つけ、その場所へと走っていけると信じているから。
「ほらほら、私の予感は当たるんです。だから、奏多くん、大丈夫です!」
「そうだったな」
結愛の素直な物言いに、奏多は思わず苦笑する。
最上階にきた時よりもぴんと伸びた背筋も、まっすぐな瞳に映された希望も。なによりも、それら全てがこれより先を進むことを決意した彼女の覚悟の表れのようで。
だからこそ――
「そうね。此ノ里結愛さん、あなたの言うとおりだわ」
聖花は結愛がそう言うのを待ち望んでいたように微笑んだ。
「『破滅の創世』様は記憶を封印されている時の出来事を覚えているもの。たとえ、カードを手にして記憶を完全に取り戻しても、『破滅の創世』様が周囲に危害を加える可能性は低いわ」
如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。
「だって、川瀬奏多くんはあなたの幼なじみだもの。あなたが望めば、きっと応えてくれるわ」
聖花の語り口は、確かに結愛が心の底で望んでいた言葉だったのだろう。
「奏多くんが応えてくれる……」
奏多の名を口にするだけで愛おしさがこみ上げる。
同時に切望する思いが広がった。
奏多に伝えたい想いはたくさんある。これから長い時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。
「でもね」
結愛の切なる願いを踏まえた上で、聖花は息を飲む程に甘美な問答を求める。
「もし、完全に記憶を取り戻したら、きっと川瀬奏多くんという疑似人格は消えるわ。何故なら、川瀬奏多くんは『破滅の創世』様の本来の姿じゃないから」
その語りかけは――その心の奥に結愛を利用する打算があるとは決して思えないような真摯な瞳と優しさに満ちた声音だった。
「此ノ里結愛さん。あなたは川瀬奏多くんと『破滅の創世』様、どちらを望んでいるの?」
「はううっ、それは……」
聖花の指摘に、結愛はわたわたと明確に言葉を詰まらせる。
「ねえ。このまま、私達、一族の上層部が『破滅の創世』様の記憶のカードを所持していた方が、あなたと川瀬奏多くんは幸せになれると思わない?」
「――白々しいな」
聖花の包み込むようなその問いかけに――応えたのは司だった。
「そう言いつつ、単純におまえ達が『破滅の創世』様の記憶のカードを所持していたいだけだろう」
状況を踏まえた司はそう判断する。
一族の上層部の矜持。その悪辣なやり方を紐解けば、全てが合致したからだ。