「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です! あなたが傍にいなきゃ、嫌です!」
「結愛……」

大切だった。結愛を導く光だった。
ただ、奏多が傍にいてくれるだけで強くなれた。
『破滅の創世』の配下達がこの世界から帰還するために何かを置き去りにしないといけないのなら、それは奏多でなければよかったのに。

「だから、私と約束して下さい。どこにも行かないと!」

そう言う結愛の目には、光るものが浮かんでいた。
二人で歩む未来はこれからも続いていくと、甘く確かな約束を求めて。

俺の帰る場所なんて……そんなの……。

大切な人が覚悟を決めて、自分を切望する。その独占じみた想いに、奏多の胸が強く脈打った。

そんなの決まっているだろ……!

大事な何かをなくした心の闇はいつまでたっても明けない。
そこにあるのは無くした過去に縋り、未来を閉ざす停滞。だけど個人の事情なんて置き去りにして、世界はいつもと変わらず明日がやってくる。
これまではそれはひどく悲しいことだと思っていた。個人に価値などないと証明しているように感じていた。
でも、それは残酷なことなんかじゃなくて、前に進むための道標。進むはずだった未来に戻るための基準点。
時間とは個人では受け入れられない悲しみを癒やすために流れていく。そう思うことができるようになったのは結愛のおかげだった。

「ああ、絶対に傍にいる。結愛、約束だ!」
「ふふ、言いましたね、約束ですよ!」

ありふれた何気ない日常こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。
二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。





遠くから誰かの叫び声が聞こえる。鋭い刃物同士がぶつかり合う音と銃声。
程なくして爆撃音が弾け、怒号が空気を震わせた。
始まりの事など覚えていない。
光陰矢の如し、神命の定めを受けて生を受けたからには彼らには朝と夜の区別など、さして気になるものでもなかった。
遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。

「神のご意志の完遂を――」

動き出した『破滅の創世』の配下達。
これまでも世界各地で暗躍していたが、ここにきて本格的に『破滅の創世』を取り戻そうという動きが見られる。
人は産まれながらに罪を犯す。だからこそ、絶望も退廃も虚栄もない世界を。
『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。その御心に応えるべく献身する。
つまり、どう足掻いても『破滅の創世』の配下達をどうにかしないことにはこの世界に平穏は訪れない。
彼らを何とかしなくては、奏多はずっと狙われ続けることになるだろう。
いずれにせよ、まずは目下の事態を収拾せねばならなかった。