『境界線機関』の者達が聖花の位置を確認し、即座に布陣する。
「あらあら? 物騒なご挨拶だこと」
聖花は自分を取り囲む『境界線機関』の者達を見る。
「冬城聖花、俺達がここに来た目的は分かっているのだろう?」
「ええ、もちろん。あなた達の狙いは『破滅の創世』様の記憶のカードの確保よね。どうぞ、こちらへ」
司が発した問いに、聖花は最上階の奥へと視線を移す。
司がそれを追いかけると歓談の場となり得るテラスがあった。
「会話を滑らかにするのは美味い菓子とお茶が必要ですわ」
聖花の言葉に嘘はないのだろう。
ただ、この『お茶会』での決定がこれから先に影響を及ぼす可能性はある。
何とも言えない空気が流れる中、星を呑むような穏やかな紫に僅かばかりの煌めきを残して、聖花の瞬く瞳は静かに奏多を見た。
「『破滅の創世』様、お会いしたかったわ」
「……俺に?」
奏多を前にして、ころころと嬉しそうに聖花が笑う。
純真なまでの笑顔には悪意の欠片もありはしない。
愛らしい少女だ――と、それぐらいにしか思わなかっただろう。
彼女が一族の上層部の一人でさえなければ。
「ずっと知りたかったの。一族の上層部の方々が長年、追い求めていた『破滅の創世』様という存在を」
それはただ、幼くも純粋な願いだった。
ひとつめに知ったこと、というのはいつまで経っても特別だ。
少なくとも聖花はそう思っている。
「ねえ、『破滅の創世』様は神としての記憶を取り戻しに来たのよね?」
椅子に腰掛けた聖花はここに来た奏多の――『破滅の創世』の神意を問う。
「でも、今まで人間として生きてきたのに、神に戻ることであなたにとって大切な人達が失われる可能性があるわ。記憶を取り戻すより、その人達のために命を賭けたらよかったと思わない?」
「それは……」
微笑む聖花は紅茶を口にしながら、奏多の選択を待っていた。
「今のあなたは自分が『川瀬奏多』という人間だと思っているわよね? でも、神である『破滅の創世』様にとっては人の心なんて不要なもの」
「人の心……」
その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。
『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』
音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。
――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。
神と人の相違。だからこそ――
「もし、神としての記憶を取り戻せば、あなたは人の心を不要なものとして切り捨てる」
「……っ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前に佇む聖花にただただ意識を奪われ続けている。
聖花は一つも嘘は吐いていない。全て明白な事実なのだろう。それでも――
「そんなことないです!」
「……結愛」
結愛は勇気を振り絞り、奏多の前に立った。
「あらあら? 物騒なご挨拶だこと」
聖花は自分を取り囲む『境界線機関』の者達を見る。
「冬城聖花、俺達がここに来た目的は分かっているのだろう?」
「ええ、もちろん。あなた達の狙いは『破滅の創世』様の記憶のカードの確保よね。どうぞ、こちらへ」
司が発した問いに、聖花は最上階の奥へと視線を移す。
司がそれを追いかけると歓談の場となり得るテラスがあった。
「会話を滑らかにするのは美味い菓子とお茶が必要ですわ」
聖花の言葉に嘘はないのだろう。
ただ、この『お茶会』での決定がこれから先に影響を及ぼす可能性はある。
何とも言えない空気が流れる中、星を呑むような穏やかな紫に僅かばかりの煌めきを残して、聖花の瞬く瞳は静かに奏多を見た。
「『破滅の創世』様、お会いしたかったわ」
「……俺に?」
奏多を前にして、ころころと嬉しそうに聖花が笑う。
純真なまでの笑顔には悪意の欠片もありはしない。
愛らしい少女だ――と、それぐらいにしか思わなかっただろう。
彼女が一族の上層部の一人でさえなければ。
「ずっと知りたかったの。一族の上層部の方々が長年、追い求めていた『破滅の創世』様という存在を」
それはただ、幼くも純粋な願いだった。
ひとつめに知ったこと、というのはいつまで経っても特別だ。
少なくとも聖花はそう思っている。
「ねえ、『破滅の創世』様は神としての記憶を取り戻しに来たのよね?」
椅子に腰掛けた聖花はここに来た奏多の――『破滅の創世』の神意を問う。
「でも、今まで人間として生きてきたのに、神に戻ることであなたにとって大切な人達が失われる可能性があるわ。記憶を取り戻すより、その人達のために命を賭けたらよかったと思わない?」
「それは……」
微笑む聖花は紅茶を口にしながら、奏多の選択を待っていた。
「今のあなたは自分が『川瀬奏多』という人間だと思っているわよね? でも、神である『破滅の創世』様にとっては人の心なんて不要なもの」
「人の心……」
その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。
『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』
音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。
――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。
神と人の相違。だからこそ――
「もし、神としての記憶を取り戻せば、あなたは人の心を不要なものとして切り捨てる」
「……っ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前に佇む聖花にただただ意識を奪われ続けている。
聖花は一つも嘘は吐いていない。全て明白な事実なのだろう。それでも――
「そんなことないです!」
「……結愛」
結愛は勇気を振り絞り、奏多の前に立った。