「つまり、冬城聖花の力でまどかは能力が使えている……っていうこと?」
「そういうことさ。ただ、そのコピーした能力自体は実際の能力者の能力には及ばない。だから、一族の上層部は、『破滅の創世』様の記憶を封印するためにその力を持つ此ノ里家の者達に頼らずをえなかった」

観月のその問いの答えに応えると、慧は新たな問いを口にする。

「つーか、本家本元を甘く見られるわけにはいかねえよな?」

意味深な慧の声音に、『境界線機関』のリーダーであり、一族の冠位の者の一人である雄飛司は剣呑に返す。

「当たり前だろう。重力操作の能力は雄飛家が本元だ!」
「――っ」

司がまどかを斬り裂く軌道で振るったその重力波は極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示された。





「……あ」

曖昧だった意識が浮上していくにつれて、指先や背中の触感も戻ってくる。
一番最初に訪れたのは痛みだった。
全身をくまなく覆う痛みと倦怠感。

「な、なんで?」

気がつけば、まどか以外は昏倒していた。
司が重力波を放つ前に、彼女もまた、咄嗟に重力波を放ったことで辛うじて意識を保てたのだ。
それでも満身(まんしん)創痍(そうい)で立ち上がるのがやっとだ。

自身が振るった能力と司が振るった能力との差。

その意味するところを余すところなく、その身に刻んだまどかは理に合わない現実にこれ以上なく混乱する。

「なんで、なんで、なんでよ……同じ能力なのに?」
「同じ能力だから競り負けるんだよ」

その渦巻く疑問すら、司は予測していたように不敵な笑みを浮かべた。

「おまえが得た力は借りもの。当然、十全に使いこなせるわけがないんだ」
「うるさい! うるさい!」

その瞬間、まどかの後方で消火器が破裂し、激しい衝撃と共に弾ける。
能力の発動を意図したわけではなかった。
だが、まどかの中で生まれた情動が知らず、重力操作の能力を解放させていた。

「このっ!」

まどかは怒りに身を任せて重力波を放つ。
それでも司は知略を駆使して、まどかに痛烈な一手を打ち込む。

「……あ、うっ」
「分かっていないな。おまえは重力操作の能力を使いこなせていない」

まどかの苦鳴に、司は感情を交えず、ただ事実だけを口にした。

なんで、なんで、なんでよ。
聖花様から授かった力が負けるはずないのに……。

止めどない思考におかされ、混乱の極致にあったまどかは――

「降り注ぐは星の裁き……!」
「……うっ」

観月のカードから放たれた無数の強大な岩の弾に何の反応もできず、意識を闇に落とした。

「まどか!」

観月は咄嗟に倒れ伏せたまどかに駆け寄ろうとするが――

「あらあら? やられてしまいましたわね」

その行く手を阻まれた。
紫の瞳と銀色の髪が特徴的な少女。
ドレスを思わせる衣装は青や紫色の花をあしらわれ、常に柔らかな微笑を湛えている。

「でも、萩野まどかという手駒は此ノ里家の者達を動かすために必要な存在。あなた達に渡すわけにはいかないの」
「あなたが……冬城聖花ね!」

カードを手にした観月は確信を持って、その名を呼んだ。

「ええ、そう。皆様、ご機嫌よう」 

奏多の姿を認めてから聖花はにこりと微笑んだ。