ひとつめ、というのはいつまで経っても特別だ。

決して顔が広いとは言い難い少女だった聖花も、幾多の伝聞を知り、多くの人間と関わってきたことで自身の世界も随分と広くなっている。

それでも、ひとつめに知ったこと、というのはどうしても記憶の底で、今も優しく揺れているものだ。

「お手並み拝見ね」

銀色の髪を風が攫う。細められた紫の瞳にかかる髪が頬に影を落としていた。

「私が最初、教えてもらったこと。それは『破滅の創世』様のことだったわ」

ドレスを思わせる衣装を身に纏い、聖花はテラスの椅子に座る。
その手には良い香りの紅茶が揺らめいていた。

「だから『破滅の創世』様は他の一族の上層部の方々だけではなく、私にとっても特別な存在」

優しげな声が奏多達が映し出された映像機器へ向けられる。
聖花は用意された菓子には一切手を付けず、微動だにしない。

「あらゆる物事は『立場』が変われば『見え方』が変わるもの。あなた達が否定する現状維持は、私達にとっては正義そのもの」

少なくとも一族の上層部の一人である聖花は、半ば盲目的に――あるいは狂信的にそう信じている。

一族の上層部という存在と決して交わることがないもの。
『破滅の創世』の配下と呼ばれる者達は一族の者共々、この世界を破壊し、『破滅の創世』の神の権能を取り戻そうとしている。
もし彼らが『破滅の創世』の記憶のカードを手に入れたら、奏多の安全を確保した上でこの世界を滅ぼすだろう。
そして、『境界線機関』と呼ばれる者達は無数の問題を解決し、幾多の困難と『破滅の創世』の配下という災厄を退けて世界を救い続けている。
しかし、それも全ては一族の上層部の思惑の一つにすぎないのだ。

「私は『破滅の創世』様の力を見るのは初めてなの。さあ、楽しませてね」

聖花の目線はピアノを奏でる奏多へと向けられていた。





「観月ちゃん。結局、一族の上層部の人達に逆らうことにしたんだね!」

まどかから向けられる憎しみの瞳が観月の心を抉る。

「なら、今度こそ、一族の上層部の人達に逆らえないことを完膚なきまでに教えてあげるんだから!』

向けられる感情も、まどかが喉を枯らして叫んだ言葉も一族の上層部の神の加護による洗脳だと分かっているのに。
大切なものは何時だって、その手をすり抜けて溢れていく。

だから――

これ以上は喪いたくはない。喪わないように、全部、守らなくてはいけない。

「私はもう逃げない。全力でまどかを止めてみせるわ!」

拳を握り締めた観月は手加減はしないと意を決する。

「結愛、奏多様、加勢するわ!」

聖花の配下達を、奏多達だけで相手取るには危険すぎる。
だからこそ、観月はカードを操り、約定を導き出す。