「奏多様」

片膝をついた司は改めて奏多の意向を確かめる。

「俺達は『破滅の創世』様を守護する任務を帯びている。それでも俺は奏多様の意思を尊重したい」
「俺の意思を……?」

付け加えられた言葉に込められた感情に、奏多ははっと顔を上げた。

「そして、慧と観月。たとえ、おまえ達が一族の上層部に利用されてもな。俺は仲間を見捨てる気はないぜ」

それは司が示した確かな信念だった。
悪意に晒されながらも、それでも乗り越えて進むしかない……と言うように。
だからこそ、奏多は逸る思いを押さえながらも、その信頼に応えようとする。

「……俺は神の記憶がある時の自分がどんな感じなのか分からない。もしかしたら、カードを目にした瞬間、その意思に呑み込まれてみんなの敵に回るかもしれない」

奏多は拳に踏み出す勇気を込めて前を見据えた。
内側から湧き上がる神の意思に抗うことなんてできないかもしれない。
それでも停滞だけでは何も変わらないことを身を持って知っている。

「でも、俺はこの作戦に参加したい! みんなの力になりたい!」

きっと奏多は何度でも言うのだろう。
その不屈の果てに、望む未来の光明があると知っているから。

「奏多、俺はおまえの決断を信じているぜ。俺も参加するからな。絶対に守ってみせるさ」

慧は守りきれるはずだと信じている。
神の意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている奏多の想いを。
それが『冠位魔撃者』――その名が献ぜられた慧にとって、前に進むための力となるはずだから。

「はい、私も作戦に参加しますよ」

結愛はありったけの勇気を振り絞って応えた。
そう――奏多と歩む未来を夢想しているから。

「私はこの絶望の状況を乗り越えて、ずっと奏多くんの傍にいたいですから」

人間と神を阻む壁はあまりにも高く硬い。
それでも奏多と歩む未来が見たいから。その幸せが欲しい。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
いつかは共に進むことくらいはできるのかもしれないと結愛は信じて。

「もちろん、私も参加するわ」

そう言った観月の言葉には決意が込められている。
『破滅の創世』の記憶のカードを入手するためには戦力が必要になるし、作戦に参加することがこの先のメリットになるのは確かだ。
ただ、その根本にはどうしようもない感情がある。大切な感情が――。

『もう戻れないんだよ、観月ちゃん。私達はもう……!』

以前までは心の奥底で抱えていた記憶。
未だ鮮明に覚えている――目を閉じる度に思い出すまどかの憎しみの瞳が観月の心を抉る。
……辛い記憶ほど後を引くものだ。
楽しかった記憶はすぐに泡沫の夢のような思い出になってしまうというのに。