黄金に輝く月の灯りが、窓の外から床に落ちてくる。
柔らかな髪がふわりと揺れて、聖花は踊るように指先を上げた。
窓硝子の向こうに見える大きな月を白い指がふわりと撫でる。

「思い出と記憶は交錯するわ」

聖花達がいる建物は遠巻きに見れば悪くない建物だが、辺鄙(へんぴ)な場所に造られただけのことはあり、軍事知識に優れる者であれば、急造や見せかけ、ランドマーク程度のものでしかないと理解できるだろう。

「たとえ、カードを手にして記憶を完全に取り戻しても、『破滅の創世』様が周囲に危害を加える可能性は低いわ」

如何に不明瞭な状況でも、答えはそれだけで事足りた。

「人として生きたことで、『思い出』という名の保険があるもの。それに一族の上層部は既に記憶を再封印する手立てを考えているわ」

聖花が語るその言葉が真実だというならば、これから起こるのは最悪だ。

「想いが、人を生かし。想いが、人を殺すとすれば。――想いとは神にとって罪なのかもしれないわね?」

一つ一つの呪いのようなその感情は神にとっては小さいものだが、長い年月とともに蓄積されたものは計り知れず、雁字搦めになっていく。
このままでは、奏多は一族の上層部の思惑に囚われたままになるだろう。
しかし、聖花はその状況の成立を何よりも待ち望んでいた。

「でもね、その罪がこの世界を救う唯一無二の方法だから」

僅かに開いている窓から入った涼風が聖花の髪を揺らす。
夜の静寂に溶かした星空は夜闇の中でも美しく見えた。

「受け入れてね、『破滅の創世』様。永遠無窮の人生を」

冬城聖花。
物心ついた時から一族の上層部の中で育ち、何の苦もせずに神の加護の力を得た彼女は、その力を有したままに知っていた。

この世界を救う方法があることを。

それが、映像機器に映し出されている――奏多の存在にあることを誰よりも知っていた。





「作戦の再確認をするぞ。まず最大目標は『破滅の創世』様の記憶のカードの確保だ。成功させるためには速やかな強襲をしなくてはならない」

司の口上に、この場に召集された者達の顔には一様に戦意と緊張の色が浮かんでいた。
監視カメラがない今は一族の上層部の裏をかくことができる状況。
とはいえ、流石にその時間も有限であり、いずれは彼らの監視によって目的の遂行は阻まれてしまうだろう。
他の一族の上層部の者達の介入はできる限り、避けたいのが本心だ。
限られた戦力である司達、『境界線機関』の者達が『破滅の創世』の記憶のカードを入手するためには迅速な対応が求められた。

「おまえ達はどうする? この作戦に参加するのか?」

司が今回の作戦への心構えを問う。
神の力を行使できる今の奏多が完全に『破滅の創世』の記憶を取り戻そうする可能性。
そして、一族の上層部が慧と観月を利用してくる可能性。
どちらの可能性も大いにあった。