神奏のフラグメンツ

「……お嫁さん!?」

結愛の爆弾発言に、奏多は虚を突かれた。

「本当の本気の本物の最大級の願い事です!」
「ゆ……結愛……」

そう意気込んだ結愛と戸惑う奏多の視線が再び、交差する。
全てを包み込むような温かな光景は、張り詰めていた観月の心を優しく解きほぐす。

――そう、きっと。
ここからが『私達』の第一歩。

だから、続く言葉は決まっていた。

「結愛、あなたならきっと大丈夫。どんな苦難も乗り越えていけるわ」

幼い頃、世界のあらゆることに怯えていた妹は、今ではいつだって勢いで奏多のもとに走って行く。
躊躇うことだって知らない彼女はまっすぐに生きているのだ。
だからこそ、観月が心配になることは多い。

「でもね、結婚はまだ早いわよ」
「ううぅ……厳しいです」

観月の説明に、結愛はしょんぼりと意気消沈する。
奏多と結愛はともに13歳。
結婚可能年齢にはまだ遠い。

「結愛、奏多様に想いが届くことを応援しているからね」

観月は今はそれでいいと噛みしめながら、穏やかに微笑んだ。
どんなに小さな可能性だって掴んでみせるから。
だから、奏多とともに共に生きる道を選んでほしい。
それが観月(あね)の心からの願い事だった。

「あの、あの、あのですね」
「結愛……?」

その時、結愛が真剣な眼差しで奏多のもとににじり寄ってくる。
そして、顔を上げて願うように言葉を重ねた。

「……奏多くん、これからも好きでいてくれますか? もし、神様の記憶を完全に取り戻したとしても……あの、あの、私のこと、好きでいてくれますか?」
「当たり前だろ」

奏多が発した言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。

「はううっ。……もう一回、もう一回!」

妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。

「今のって、当たり前だろ、ってやつか……」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「当たり前だろ」
「きゃーっ」

張り詰めていた場の空気が温まる。
この瞳に映る花咲く結愛の笑顔が春の温もりのように感じられて。
奏多は強張っていた表情を緩ませた。

「つーか、このやり取り、いつまでも続きそうだな」
「結愛のことだから、いつまでも続くと思うわ」

やがて、空の向こうが月明かりに包まれていく。
満ちていく世界の中で、慧と観月は弟と妹が紡ぐ温かな光景を見守っていた。

奏多と結愛が抱く永久の想い。
その安らぎが、少しでも永くあることを願って。