「まぁ、そういうことだ。観月、俺達の目的を果たすためにも……力を貸してくれ!」

慧は強い瞳で観月を見据える。
それは深い絶望に塗れながらも前に進む決意を湛えた眸だった。
一族の上層部の策謀。何一つ連中の思いどおりなど、させてやるものかと。

「ええ……もちろんよ……」

他に言葉は不要とばかりに、観月は優しい表情を浮かべていた。
二人の誓いはたった一つ。
奏多と結愛を護るためにこの状況を打開すること――一族の上層部の野望を(くじ)くために絶望の未来になる連鎖を断ち切ることだ。

「決められた運命なんかに絶対に負けたくないもの!」

観月の覚悟が決まる。

ここにいるみんなで神の加護に本気で抗う。
そして、『破滅の創世』の神意に立ち向かう。

観月は信じている。奇跡が起こることを。
奏多達が定められた運命を壊してくれることを。

「たとえ、まどかが立ち塞がってきても、私達は『破滅の創世』様の記憶のカードを手に入れてみせる……」

問題があるとすれば、どうしてもできるだけまどかを傷つけたくないという観月の心が働いてしまうことだろうか。
それでも操られている状態から一手でも早く、彼女を取り戻さねばならない。

「――全力でまどかを止めてみせるわ!」

拳を握り締めた観月は手加減はしないと意を決する。

「……奏多が今も神の力を行使できている。『破滅の創世』様の『記憶のカード』が、この近くにあるのは間違いないからな」

慧は奏多の様子からそう結論づけた。
それを知ることができたのはまだ捕えられたままのまどかと対峙した時の貴重なアドバンテージとなる。
神の加護を妨害することで彼女の戒めを解き放つ選択を最初から取れるのだから。

「司達が今、この付近を捜索している。ただ、手がかりは掴めていないみたいだな」
「大丈夫です! 大丈夫ですよ! きっと見つかります!」

結愛が先を促すように言葉を重ねたのは、カードの在処(ありか)を求めたからではない。
奏多と観月がどこか不安そうな表情を浮かべていたためである。

「ほらほら、私の予感は当たるんです。だから大丈夫です!」
「……っ」

それでも表情を雲らせている奏多に、結愛は思いの丈をぶつけた。

「私はどんな奏多くんでも大好きですよ」

結愛は想いが色褪せないように改めて告白する。
形に残るものが全てじゃないと知っているから。
そして、『破滅の創世』の記憶がある時の奏多も『奏多』だと気づけたから。

「奏多くんの幸せが私の幸せです。だから、私にも奏多くんと同じ光景を――明日を見させてください」

結愛はいつもいつも願う。
ずっと、奏多の傍に居させてほしいと。
どうかこの命に奇跡の灯を。

「あと、あの……できれば、ずっと一緒にいるだけではなくて」
「結愛?」

それを願うのは欲張りだと思いながらも、結愛には離れがたい気持ちだけが増していく。

「奏多くんのお嫁さんになりたいです!」
「……っ」

結愛が覚悟を決めて、奏多を切望する。
その独占じみた想いに、奏多の胸が強く脈打った。