「……まどかお姉ちゃんが」
「……神の加護による洗脳を受けている」

思わぬ事実を前にして、結愛と奏多は言葉が出なかった。

「それって、俺の神の力が悪用されているんだな」

特に奏多は動揺して身動きが取れずにいた。

神の魂の具現として生を受けたこと。

尋常ならざる力を持つことは同時に尋常ならぬ運命を背負うことになるのだと、奏多は身を持って知ってしまったから。
今はこの状況をどうするべきか考えている最中なのだろう。

「結愛、奏多様……」

観月は心配そうに奏多と結愛の悲しげな瞳を見つめる。
この戦場で(もたら)された事実は、それほどまでに奏多達の心を抉るものだったのだろう。
迷い、悩み、悔やみ。前を向いて歩いて行く姿を見たばかりだったのに。
このまま立ち止まってしまうのではないかと不安にさせられる。
だが――次に結愛が放った言葉は、観月の予想だにしないものだった。

「お姉ちゃん、大丈夫ですよ」
「な、なにがだよ……」

導くような結愛の優しい声音。隣に立っていた奏多は事態を飲み込めないように頭を振る。

「私達が『破滅の創世』様の記憶のカードを手に入れたら、一族の上層部さんはきっと神の加護を容易に行使できなくなりますから」
「結愛……」

観月に向ける結愛のまっすぐな瞳は変わらない。いつだって紛うなき本音を晒しているのが窺えた。

「そうであってほしいなぁっていう、私の願望も含まれているんですけども……」

諦めているくせに、どこかで信じて、それに縋っている。
そんな心を結愛は身を持ってよく知っていた。

「でも、お姉ちゃん、安心してください。大丈夫です」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた観月をまっすぐに見つめた。

「私達が『破滅の創世』様の記憶のカードを手に入れたら、一族の上層部さんはきっと神の加護を容易に行使できなくなります。それに『破滅の創世』様の記憶を取り戻した奏多くんとも分かち合えます」

この言葉が、観月が自由へと羽ばたくその一助となることを結愛は切に願う。
それがいつになるか分からなくても、遠い遠い先の話であっても。
いつか近い未来、観月とまどかが元気に笑い合う姿を想い浮かべながら。

「何故なら予感があるのです。神様の記憶が戻っている時の……超絶レアな奏多くんのピアノの演奏を聞いた時のような予感です。だから、お姉ちゃん、心配しないでくださいね」
「結愛、ありがとう……」

結愛の宣言に、観月の心の奥底から熱が溢れる。
感情が震えて熱い涙が止まらない。

「たとえが結愛らしいな」
「えへへ……奏多くんが奏でる演奏、最高です」

奏多の穏やかな声音に、結愛の心は勇気づけられた。
それだけ結愛にとっても思い入れが強いということなのだろう。
あの日、音楽室で、奏多が数多の世界を想いながら弾いたピアノの演奏は。