慧を蘇えらせて不死者にして利用したのは誰なのかは判明していない。
観月は一族の上層部に逆らうことができない理由がある。
そして、一族の上層部の企みもいまだ不明のまま――。
それらの問題を解消する手立てはあるものの、まだ必要な戦力を見込めていない。

「『破滅の創世』様の記憶のカードの捜索は司達に任せようぜ。利用されかねない俺達はこのまま奏多達の警護だ」
「……そうね」

慧の言葉は、観月の瞳を揺らがせるのに十分すぎた。
そこに結愛と奏多が躊躇うようにいそいそと近づいてくる。

「お姉ちゃん、あの……その……」

上目遣いに窺うような結愛の声音。観月は不思議そうに目を瞬く。

「ごめんなさい! いっぱい、ごめんなさい!」
「結愛……」

結愛の突然の深罪に、観月は呆気に取られる。

「私、お姉ちゃんが一族の上層部さんに逆らうことができないの、ずっと前から知っていました。辛い気持ちを抱えていたことも……。でも、私は怖くて……目を背けちゃって……」

結愛は幼い頃、臆病者だった。観月に手を引いて貰わねば、歩き出せないほどの怖がりで。
自分のことだけで精一杯で、此ノ里家の呪いに囚われている観月に救いの手を差し伸べる勇気もなかった。

「でもでも、奏多くんと出逢って、私の世界は変わりました。奏多くんが傍にいるだけで、いっぱいいっぱい勇気が湧いてきます」

奏多と出逢い、そこで生まれた数えきれない感情。
だからこそ、結愛は今まで目を背けていた現状に向き合うことができる。

「奏多くんに出逢ってから今日まで……たくさんの勇気を奏多くんからもらいました。だから、大丈夫です」

観月に向ける結愛のまっすぐな瞳は変わらない。紛(まご)うなき本音を晒しているのが窺えた。

「お姉ちゃんが困っていること、私と奏多くんにも教えてください」
「お願いします」

結愛と奏多のささやかな願いは、観月の心の安寧を望んでいる。
しかし、観月の表情は暗い。

「結愛、奏多様、ありがとう……。でも……」

その時、今まで黙っていた司が我慢ならないと声を上げた。

「本当は助けてほしいんだろう。助けてほしいならちゃんと伝えろ!」

この期に及んで本音を隠そうとする観月を叱り飛ばす。

「たとえ、おまえと慧が一族の上層部に利用されてもな。俺は仲間を見捨てる気はないぜ」

それは司が示した確かな信念だった。
悪意に晒されながらも、それでも乗り越えて進むしかない……と言うように。

「…………馬鹿ね」

戦場に訪れた穏やかな時間は、痛ましい傷を隠しているかのようだった。
吹く夜風に煽られて、観月は目を伏せる。

「本当に、私は馬鹿なんだから。信じるって言ったばかりなのに、すぐに迷って……」

連綿と積み重ねられた一族の罪。
真実を露見することで、観月だけではなく、結愛にも重い荷物を背負わせてしまうことになる。
そして、少なくともこの場にいる奏多達をかなりの危険に晒すことになりかねない。
しかし、世界に生じる禍根を断つためには何らかの変化が必要だった。